遺伝と環境で見る気質・性格・パーソナリティ 

 

今回は個人的な生物学的因子とされている「遺伝と気質」と、ビッグ5ロニンジャーの理論をまとめ、性格・パーソナリティの差異、それぞれの特徴、関連する心・精神の病理をテーマに考察しています。

 

また、今回の「環境」の力学に関しては、前回のテーマから続いている基層文化「モノクロニック・ポリクロニックの概念も含め「日本という社会」・「日本人に多く見られる特徴」から考察を加えてみました。

 

◇ 外部サイト記事の紹介

優秀な遺伝子も打ち負かし得る貧困―知能を左右するのは環境
心の病気は、あなたのせいではない。8つの理由
遺伝と性格
新しい遺伝学

 

 

ビッグ5

 

「ビッグ5を臨床で使おう:総合科学としての性格5因子パラダイム」より引用抜粋

これまでのパーソナリティ心理学は、統計学的な手法を用いた記述や分類が主であり、パーソナリティを固定的なものと捉えたので、 パーソナリティがどのように変化するかを説明しなかった。

これに対して、ビッグ5にもとづく研究では、パーソナリティの個差の心理学的実体を明らかにしつつあり、後述のように、パーソリティの「変化」についての理解も進んだ。

ビッグ5理論は、これまでのさまざまなパーソナリティ理論を統合組みともなりつつある。

これまで、パーソナリティの研究は、互いに無関係におこなわれてており、互いの関係についてはわからなかった。ビッグ5の枠組みの大きな利点は、これまで無関係に研究されてきたパーソナリティの概念を整理できである。

また、ビッグ5の枠組みの中で、これまでバラバラにおこなわれて物学・心理学・社会学の研究が統合され、互いの関係が明らかとなった。今や、パーソナリティの研究は、学際的な科学のひとつのパラダイとして成長した。 

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 「ビッグ5を臨床で使おう:総合科学としての性格5因子パラダイム」

 

もうひとつ追加更新で関連記事の紹介です。進化生物学の視点からの興味深い考察です。

 

「精神疾患関連遺伝子から探る、人のこころの進化」 より引用抜粋

「性格と精神疾患は共通の遺伝基盤をもつ」

(前略)
遺伝学の分野では、近年の大規模ゲノム解析の進展とともに、上述の性格の5因子に影響を与える遺伝子や遺伝的変異が特定され、性格の遺伝学的基盤に注目が集まっています。

一方で、これらの研究のひとつの発見は、「性格と精神疾患は共通の遺伝基盤をもつ」ということでした。

すなわち、精神疾患に関連する遺伝子は、同時に性格の違いにも影響しており、精神疾患と性格のあいだにはある種の量的な違いがあるだけかもしれないのです。

しかし、こうした性格や精神疾患に関わる遺伝子がどのように進化してきたのかについてはよくわかっていません。

現代人の5人に1人は、一生のあいだに何らかの精神疾患を発症するといわれており、こうした遺伝的変異が集団中に存在する理由を解き明かすことで、精神疾患の根本的な治療につながるかもしれません。

本研究では、人類の系統で進化してきた精神疾患関連遺伝子に着目し、性格や精神疾患の程度の違いに影響する遺伝的変異やその多様性がどのように進化してきたのか、進化生物学の視点から解明を目指しました。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 精神疾患関連遺伝子から探る、人のこころの進化

 

 

 

 

N:神経症傾向    E:外向性    O:開放性   A:協調性(調和性)C:統制性(誠実性)

 

「N・E・O・A・C」の五つのそれぞれの要素が「高い= 低い= 」場合での分類

     神経症傾向高    神経症傾向低    外向性    内向性   ⇧ 独創性    平凡   ⇧ 協調性    分離性   ⇧ 統制性    衝動性

 

 

 

     否定的感情    情動安定性       外向    離脱       精神病性    透明性       同調性    対立       誠実性    脱抑制

 

 パーソナリティの病理の組み合わせ例

統合失調型パーソナリティ障害 ≒「 + 」  ➁ 回避性パーソナリティ障害  ≒「 + 」 ➂ 強迫性パーソナリティ障害  ≒「 +

 

 

 

N: 罰感受性 ネガティブ情動性

関連する脳部位と神経伝達物質】⇒ 扁桃体、セロトニン 【関連するパーソナリティの病理】⇒ クラスターC( 回避性・依存性・強迫性)・自殺・危険行動

E: 報酬感受性 ポジティブ情動性

関連する脳部位と神経伝達物質】⇒ 中脳ドーパミン報酬系  【関連するパーソナリティの病理】⇒ 回避性・強迫性・統合失調型等のパーソナリティ障害

O: 知能 拡散的思考  創造性 

関連する脳部位】⇒ 前頭葉機能との関連性が考えられている。  認知のゆるみ(認知的脱抑制)と関わり「教養」「文化」とも関連。 【関連するパーソナリティの病理】⇒  統合失調型パーソナリティ障害

A: 共感性 心の理論

【関連する脳部位】⇒ 社会脳  クレッチマーの「循環気質」と関連。【関連するパーソナリティの病理】⇒  クラスターB( 反社会性・境界性・演技性・ 自己愛性)・自閉症・非行・犯罪

C:「達成動機」「完全主義」「衝動抑制」

経済成長、職業的成功と関連。 【関連するパーソナリティの病理】⇒  強迫性・反社会性・境界性パー
ソナリティ障害・ ADHD・ 依存症(薬物依存、ギャンブル依存)・ 摂食障害

 

 

 

A:協調性(調和性)とC:統制性(誠実性)

 

A:協調性(調和性)

協調性調和性、同調性、愛着性などとも呼ばれ、分離性対立性などと呼ばれることもある。協調性が過剰だと同調圧力・「多数派(集団)同調バイアス」「外集団・内集団バイアス」などに繋がります。

また、「強い協調性+分離不安」=依存性パーソナリティ障害と関連し、「分離性の高い人」は、不調和で自閉的になり「ウチとソト」の極端な区分けが生じて排他的(敵意の増大)の傾向性に繋がります。

分離肥大性が増した場合」は、クラスターB(反社会性パーソナリティ障害、境界性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害)と関連します。

 

C:統制性(誠実性)

「変化の少ない安定した環境」では適応的だが、「統制性の過剰な場合」は「達成動機」+「完全主義」=強迫的傾向が増す。

「衝動性」の過剰な場合軽率・目先の利益に飛びつく・根気がない・などにつながるが、「変化の激しい環境」には適応的な面もある。反社会性パーソナリティ障害や境界性パーソナリティ障害と関連する。ADHD(注意欠如多動症)とも関連する。

 

 

ではここで、前回テーマと絡めて、モノクロニック・ポリクロニックの概念で見た場合の関連性で考察してみます。(以下、モノクロニック=M ポリクロニック=P

過去記事   
現代日本の文化的時間と仕事・自我の関係 /時間・空間とのズレ

 

Pタイム型発想(=人望があり、寛大な発想を持つ)で、Mタイム型行(=信頼できる行動)をとる人間はビジネスの世界では必要な人材。 Pタイム型発想 ≒ A:協調性(調和性) Mタイム型行動 ≒ C:統制性(誠実性)

置き換えると ⇩

協調性(調和性)ベースに統制性(誠実性)行動をとる人間はビジネスの世界では必要な人材、となり、これはとてもわかりやすいですね、日本人に一番多いタイプといえます。

 

A:協調性(調和性)は循環気質」と関連し、循環気質」は双極性障害とも関連します。

循環気質」は良い面に出れば「社交的で明るい人」であり、双極性障害のように分離性として否定的な面が出る場合は「不調和で自閉的」になる極端性を持ちます。

日本には双極性障害系の天才が多い、海外の天才には統合失調型パーソナリティ系も多い」とか言われる背景にあるものは、双極性障害系の方が日本社会の中でまだ「受け入れやすい性質」を持っているために、

共に「開放系」「認知的脱抑制」を持つこの創造性遺伝子が、「社会的に昇華されクリエイティブ化されやすい」というのも要因のひとつとしてあるだろうと私は考えます。

ですが同じく創造性遺伝子が絡んでいる「統合失調型パーソナリティ」の場合、「協調性・秩序・集団同調性バイアスが高く均一性を好む日本」では「協調性にかけた奇抜な変人」という扱いなる傾向が強く、

たまたま「懐の深い成功者」とかに見いだされたり「運よく独創的アイディアがヒットする」とか、まぁそういう「縁」や「運」での希少な成功例を除いて、

大概は「創造性昇華」どころか、「変態性アイデンティティの強化」というマイナー人生・ドロップアウト組に追い込まれる確率は高いでしょう。

やはり欧米のような自立した個人としてそれぞれの能力多元性を評価するシステムでないと、統合失調型パーソナリティ系の社会的な創造昇華は困難だと考えます。

 

Mタイム型発想(=緻密な職人技を磨くべく修行する気持ちを持ち) でPタイム型行動(=形にとらわれない自由な活動)をとる人間は芸術家や科学者の世界で重要な人材。

Mタイム型発想≒N:神経症傾向を職人的緻密さへ社会化   Pタイム型行動≒O:開放性を創造的活動性へ昇華   

置き換えると ⇩

「神経症傾向」Mタイム型発想に、それをベースに「開放性」Pタイム型で行動化 芸術家や科学者の世界で必要な人材。

 

日本人に多いもう一つのタイプが、

Mタイム型発想(=緻密な職人技を磨くべく修行する気持ちを持ち) でMタイム型行動 (=信頼できる行動)をとる人間です。

大うつ病になりやすい性格の人は、まじめ・几帳面・義理堅い人、まさにメランコリー型ですね。ですが日本人の基層の心性はP性優位です。なので本質とズレて自己分離的になりやすく、過剰適応に向かいやすいんですね。

 

◇ 関連PDFの紹介

➀  成人愛着スタイルとBigFive性格特性との関係性

思春期のストレスは神経エピジェネティクス機構の障
害を引き起こし、成体の行動パターン・神経系を障害する

 

ロバート・クロニンジャー

次はアメリカの精神科医ロバート・クロニンジャーの「パーソナリティ7次元モデルの理論」で見てみましょう。先の「N・E・O・A・C」と重なる部分もあり、補足説明を加えながら書いています。

 

➀ 新奇性探求(ドーパミン系)➁ 損害回避(セロトニン系)報酬依存(ノルアドレナリン系)➃ 固執

」の場合、「」の場合に分け、またそれぞれのでシンプルにまとめたものが以下です。

 

➀ 新奇性探求: (Novelty Seeking)

」 ⇒ 所:探求心・好奇心 所:無鉄砲・飽きっぽい無秩序  」 ⇒ 所:禁欲的・規則正しい 所:現状維持・マンネリ・ケチ
 

外向性は「報酬感受性」と「ポジティブ情動性」の強さをあらわし脳の側座核を中心とするドーパミン報酬系の機能。

外向性が高すぎる ⇒ 「演技性パーソナリティ障害」に関連。 外向性が低すぎる ⇒ 「統合失調型パーソナリティ障害」「回避性パーソナリティ障害」「強迫性パーソナリティ障害」に関連。

 

損害回避: (Harm Avoidance)

所:堅実   所:臆病・心配性・悲観的   所:楽観的・外向的  所:ハイリスクハイリターン

 

グレイは、罰回避感受性のもとには、嫌悪刺激を回避するような生物学的基盤があると考え、これを行動抑制系と呼び、テレゲンは、神経症傾向を「ネガティブ情動性」と呼んだ。

心理療法の歴史は神経症傾向(N)の「ネガティブ情動性」に対してウエイトが置かれた対処(例:行動療法・認知療法・クライエント中心療法など)。

だが先に紹介のPDFでも指摘している通り、神経症傾向(N)以外の因子によって生じる精神の病理も多く、「それぞれの病理に対応した技法の必要性があるのではないか」という部分はよくわかります。

私自身もそして母や知人も、「ネガティブ情動性」に対して重点が置かれた対処だけではどうにもなりませんでしたので、やはり個性差によって多元的なアプローチが必要だと思いますね。

 

➂ 報酬依存: (Reward Dependence)

所:積極的・褒めると伸びる・愛情深い   所:感情的(興奮しやすい・怒りっぽい) 所:マイペース   所:無関心・孤立

 

➃ 固執:(Persistence)

所:粘り強さ・継続力   所:こだわり・頭が固い  所:柔軟   所:いい加減・根気がない

 

1.自己志向 2.協調 3.自己超越

自己志向」は、自己肯定感を土台に自他分離した個人としての精神の自立度を表し、「協調」は、共感性と利他性で、社会的調和と統合度を表し、「自己超越」は瞑想的ですね、文化的・社会的条件付けを超えて、 人類的・宇宙的な全体性としての統合意識ですね。

クロニンジャーは、パーソナリティ障害の原因を「性格」の要素が低いためだと考え、例えば「自己志向亅と「協調亅 の要素が共に低い人はパーソナリティ障害になる可能性が高く、

例えばこのブログでよく出てくる「分離肥大」とか「自己肥大」という表現は「自己愛性人格障害」の特徴の一つでもあって、

「自己愛性人格障害」の場合は「損害回避性・協調性・自己指向性」 「自己超越性」 となります。

つまり、「自己超越」というのは「自立し自他分離した成熟した個人」「共感性と利他性をベースにした社会性」という二つの土台と共にある時に「人類的・宇宙的な全体性としての統合・調和」となるのであって、

それが共に低い者が「自己超越性」に向かった場合、例えば犯罪者・独裁者・カルト的新興宗教の教祖のような「自己愛性人格障害」となる傾向性を高めることもあるわけですね。

 

 

参考・図の引用元 ⇒ http://www.h2.dion.ne.jp/~manteau/aomanto/opinion/soturon/text.htm#b:Cloningerのパーソナリティ理論

 

 

ではラストに、以下の参考記事を紹介し記事の終わりとします。

 

「性格傾向(気質)と灰白質密度・体積の関連について ーVBMを用いた研究ー」 より引用抜粋

従来の性格研究から、新奇性追求、損害回避、報酬依存、固執の4つの気はそれぞれ独立して遺伝し成人初期までに完成すると考えられている(Cloninger etal., 1993)。

一方で、自己志向、協調、自己超越の3つの性格は成人期以降に形成される。神経画像研究では、すでに性格傾向と脳の形態や機能との関係を指摘した幾つかの報告がある。

例えば構造MRI研究では、帯状回と損害回避の関連(Pujol et al.,  2002)や、前頭葉と自己超越との関連が指摘されている(Kaasinen  et al., 2005)。機能的MRI研究では前頭前野の賦活と、被験者の外向性傾向との相関が報告されている(Kumari et al., 2004)。
(中略)
扁桃体と眼窩回の体積は、損害回避得点と有意な正の相関を示した。扁桃体の機能は嫌悪条件づけや顔認知などに関係しており、神経画像研究ではうつ病患者で肥大していることも報告されている。

本研究では損害回避得点の高い被験者では、同時に抑うつ評価尺度得点も高かった(r=0.38, p<0.01)。従って扁桃体の体積は被験者の受けた心理社会的ストレスや、ストレスへ反応性と関連しているかもしれない。

眼窩回は扁桃体との間に密接な神経投射があり、感情の学習やストレス反応に関っていると推測される。

• 左背側前頭前野の灰白質体積が、新奇性追求得点と有意な正の相関を示した。

fMRI研究では作動記憶課題を遂行中の前頭前野の賦活の程度が、外向性/内向性得点と相関している(Kumeri et al., 2004)。

新奇刺激を好む傾向を持つ被験者では前頭葉の活動が亢進しており、 さらに灰白質の体積へも影響を与えている可能性がある。

• 尾状核尾部体積が報酬依存得点と相関した。尾状核は基底核の一 部であり、他の皮質部分とも共同して動機付けや報酬期待などに関連している。

この領域の体積が大きい被験者は、社会的な動機付けや報酬期待に基づいた行動をとりやすいと考えられる。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ http://www.med.nagoya-u.ac.jp/seisin/staff/iidaka_hp/tcivbm.pdf

遺伝と環境で見る気質・性格・パーソナリティ ” に対して1件のコメントがあります。

  1. novus_amor より:

    当事者にとって深く考えさせる記事です。
    ざっと目を通しただけなのであとでゆっくり読みますね。
    読むだけでコメントしない人の気が知れません。

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