記憶・モニタリングと運動・情動・意欲・報酬の脳神経学的なメカニズム
認知科学・脳科学のテーマのpart3です。part1、part2は下記リンクよりどうぞ。
part1 前頭葉(認知の進化と発達 再構築される心の現実)
part2 心・精神のバランス異常(視床・視床下部・大脳辺縁系・島皮質)
今回は「記憶のメカニズム」と「大脳基底核」、「大脳皮質 – 基底核ループ」「モニタリング機能」「報酬」をテーマに動画やPDF、外部サイト記事を紹介しつつ認知科学・脳科学で考察した記事を書いています。
これらの脳・神経の構造性に関する内容は、強迫神経症、その他の不安障害、うつ病、統合失調症、発達障害、パーソナリティ障害などにも絡んだ広い範囲に関連しています。
記憶のメカニズム
「記憶」は主に三つに分類されますが、心理学的な概念では「感覚記憶、短期記憶、長期記憶」、臨床神経学的な概念では「即時記憶、近時記憶、遠隔記憶」という専門用語で分類される。※ ワーキングメモリ(作業記憶)は「短期記憶」に該当します。
長期記憶には、意識的で言語で表現できる「陳述的記憶」と、非意識的で言語で表現出来ない「非陳述的記憶」があり、陳述的記憶(自伝的記憶)は宣言的記憶とも言われ、エピソード記憶と意味記憶の二つに分けられ、
非陳述的記憶は体で覚える技能や習慣などの手続き記憶、古典的条件付け、プライミングなどに分かれます。また対応する脳部位なども異なります。以下は「脳科学辞典」から引用した図です。「記憶」の種類と「脳」のどの部位と対応しているかをまとめたものです。
引用元 ⇒ 陳述記憶・非陳述記憶
陳述記憶はエピソード記憶と意味記憶に分けられ、自伝的記憶はエピソード記憶に含まれるのですが、この質の違いというのは「個人性が濃い特別な出来事などの記憶」~「繰り返しの日常の出来事」~「個人性が薄い記憶」へ向かうほど、
「シンプルな意味性」だけを帯びる記憶となり、「個人性の濃さ~薄さ」のグレードの順に並べると、自伝的記憶 > エピソード記憶 > 意味記憶となります。
参考PDF ⇒ 第 4 章 記憶 – 脳と心:認知神経科学入門
〇 怖い体験が記憶として脳に刻まれるメカニズムの解明へ -扁桃体ニューロンの活動とノルアドレナリンの活性が鍵-
〇 記憶に関係する新たな分子メカニズムを解明 – 名古屋大学
〇 【神経科学トピックス】 長期記憶形成におけるCREB補助因子の脳領域特異的役割
大脳基底核と「大脳皮質 – 基底核ループ」
ではまず、畿央大学ニューロリハビリテーション研究センターによる「10分でわかる脳の構造と機能vol 6「大脳基底核」から紹介します。
大脳基底核(だいのうきていかく)は神経核の集まりで、「抑制性の出力の強弱」を調整することで大脳皮質や脳幹の機能の調整を行う「脳皮質と視床、脳幹を結びつけている神経ネットワーク」。
大脳基底核と前頭葉を中心にした大脳皮質との神経ネットワークを「大脳皮質 – 基底核ループ」と呼び、これはさらに「運動系ループ」 「連合系ループ」「 辺縁系ループ」などからなり、
これらの総合的なループ活動によって上下肢の運動や眼球運動以外に、高次脳機能、情動などにも作用し、調整している。
線条体(被殻・尾状核・腹側線条体)、淡蒼球(外節・内節)、黒質(緻密部・網様部)、視床下核で構成されている。
※「線条体と視床下核」が大脳基底核の「入力部」(大脳皮質から興奮性入力を受ける)「淡蒼球内節と黒質網様部」は「出力部」で、GABA 作動性の抑制性 ニューロンで成り立ち、脳幹に投射している。
※ 線条体は『背側線条体(新線条体)と腹側線条体(別名:側坐核)』に区分され、一般的に「線条体」という場合は「新線条体」を指すことが多い。
※ 入力部から出力部へは直接路と間接路の二つの経路により情報伝達され、直接路は脱抑制(運動の発現に関わる)、間接路は不必要な運動の抑制に関与。
※ 黒質緻密部はドパミン作動性ニューロンより構成されており、主に線条体に投射。ドパミンは、線条体の直接路ニューロンに対してはドパミンD1 受容体を介して「興奮性」に、間接路ニューロンに対してはD2 受容体を介して「抑制性」に働く。
※ ハイパー直接路は大脳皮質からの「興奮性入力」を、直接路、間接路よりも速く、淡蒼球内節・黒質網様部に伝え、「ハイパー直接路・直接路・間接路を介する信号」は、
視床・大脳皮質の活動に時間的、 空間的に作用し、適切なタイミング で必要な運動を引き起こし、逆に不必要な運動は抑制する役割として機能している。
※ 尾状核は大脳半球(右脳、左脳)にそれぞれ存在し 学習と記憶システムや行動と思考の習慣などに関与。⇒ 大脳皮質—大脳基底核ループと大脳基底核疾患
運動系ループ以外にも、 連合系ループ(意思決定、ワーキングメモリ、遂行機能に関与)、辺縁系ループ(意欲、情動のコントロールに関与)があり、運動を行う際の意欲や意思決定、高次の認知情報処理にも関与している。
「モニタリング」と「連合系ループ」
自己の認知活動をモニタリングする能力は「メタ認知」の根幹をなすものであり、内観的・客観的に自らの思考・認知の活動に気づく能力であり、主に前回の記事で触れましたが、
衝動性は脳の前頭前野、特に眼窩部、腹内側部、前部帯状回と関連が深く、衝動制御の障害としてあげられている疾患に「統合失調症、双極性障害、強迫性障害、摂食障害、注意欠陥・多動性障害、トゥレット障害」他に「病的賭博、窃盗癖、抜毛癖」などがあり、
「制御困難な衝動的行動」に対しては「メタ認知能力」の回復及び向上が必要なんですね。前頭前野や前部帯状回に関する感情・情動制御に関しては前回の記事を参考にしてもらえば良いと思いますが、
今回は「メタ認知能力」の構成要素の一つである「大脳皮質 – 基底核ループ」のひとつである「連合系ループ」のモニタリング能力をピックアップしています。
例えば人が「自分が何をしようとしているのか」をたまに忘れたり、覚えていたりするのもこの回路が関与し、東京都医学総研はその脳の仕組みを研究し発表しました。
「自分が何をしようとしているのかを忘れない脳のしくみを発見 行動のモニタリングに前頭前野と大脳基底核をつなぐ回路が関与 」 より引用抜粋
(前略)
「鶏は三歩歩けば忘れる」といわれますが、私たちも「何かをするために歩き始めたけれ
ども途中で忘れてしまった」というような度忘れをしばしば経験します。こうした例は、
行動を正しく完了させるためには「自分が何をしようとしているのかを忘れない」ことが
重要であることを示します。これは、「モニタリング機能」と呼ばれ、人間で大きく発達した高次脳機能(※1)の一
角をなします。加齢や脳損傷によって高次脳機能に不全が生じると、このモニタリング機
能にも問題が生じます。その結果、行動の目的(ゴール)を途中で忘れてしまうため、い
つになってもそれを達成することができなくなってしまいます。このように、重要な脳機能であるにもかかわらず、モニタリング機能を支える神経ネット
ワークは不明でした。そこで本研究では、この機能を必要とする行動課題を行っているサ
ルから神経活動を記録することによって、それを反映する活動を探すことを行いました。その結果、高次脳機能の中心である前頭前野に加えて、これと密接にやり取りをしている
脳深部の領域(大脳基底核)が行動ゴールのモニタリング機能に深く関与していることが
明らかとなりました。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)引用元⇒ 自分が何をしようとしているのかを忘れない脳のしくみを発見 行動のモニタリングに前頭前野と大脳基底核をつなぐ回路が関与
腹側被蓋野と報酬系の脳神経学的なメカニズム
腹側被蓋野はドパミン、GABA、グルタミン酸作動性神経によって成り立ち、「快」の感覚を生起させる活動で活性化し、報酬系の神経学的なメカニズムに深く関連する部位で、嗜癖行動や恐怖条件付けに関連すると考えられ、
中脳辺縁系(腹側被蓋野 – 側坐核)、中脳皮質系(腹側被蓋野 – 前頭葉)の2つのドパミン経路の一部である。
「パーキンソン病 病状・介護日誌」さん、「管理薬剤師.com」さんのサイトではとてもわかりやすい画像と解説で全体像が丁寧にまとめられていますので参考にどうぞ。
〇 パーキンソン病 病状・介護日誌 ⇒ 脳幹・中脳・腹側被蓋野・橋・延髄・小脳・錐体路
〇 管理薬剤師.com ⇒ 脳、辺縁系、基底核