有限と無限  あり得ないはあり得ない

神についての思索を表現しない方程式は僕にとっては無価値だ」と語る天才数学者ラマヌジャンは、ロゴス的知性による哲学とは真逆の直観によるものであり、ラマヌジャンの知への洞察は瞑想的ものなんですね。

ここで語る「瞑想」という表現は「マインドフルネス」のようなものではありません。また「直観」と「直感」は異なりますが、そういう言語の意味的な差異はともかく、「直感」といわれる無意識的なものにも多元性があります。

そして「天才的なひらめき」をもった数学者と言われたラマヌジャンですが、「思考」の根源はほんとうに内部からしかもたらされないのか?

 

「 第9回 ラマヌジャン 」 より引用抜粋

ケンブリッジの数学者がラマヌジャンと話して驚いたのは,正しいと考えている自分の公式をラマヌジャンが往々にして『証明』できないことだった.「彼の研究成果は,論証と直観と帰納法が奇妙に混交した思考プロセスから得られており,当人でも論理的に首尾一貫した説明ができませんでした」
(中略)
それはひょっとするとラマヌジャンの数学が,論理学や哲学と根っこのところで不可分なギリシャ – ヨーロッパ式の数学の枠組みには,結局のところうまく収まりきらないということなのかも知れない──ラマヌジャンのことを調べているうち,ふとそんな思いに誘われた.

ラマヌジャンにあっては数学は,論理学や哲学より,神学や信仰との方が遙かに親近性が高かった.ケンブリッジでは暖炉を囲んで「 0 は絶対実在を,無限 ∞はその多様な顕在化を,そして両者を掛け合わせた積 0×∞ はあらゆる数を表象し,そのひとつひとつが創造の営みに対応している」と熱っぽく語り,周囲の研究者に「神についての思索を表現しない方程式は僕にとっては無価値だ」と話していた.占星術や夢占いにも強い関心を持ち続けた.

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒  第9回 ラマヌジャン

 

ラマヌジャンがハーディに宛てた手紙の中に、彼の数学的発想の源が「ナマギーリが舌に数式を書いてくれる」と書かれてあったとのことですが、彼は敬虔なヒンドゥー教徒で、母親から宗教教育を受けていました。また彼は夢の中で神から公式を教えてもらったという話をよくしていたといわれてますが、その神とはナマギーリのことです。

ico05-005 「論理」は必ず「流れ」を伴って現れる。いや、それだけではなく、そもそも論理と流れとは同一のものだ。 (数学者 加藤文元)

 

「与格-ふいに その2」 より引用抜粋

現代数学で重視されるのは、数式を導き出す論理的プロセスで、「証明」が認められてこそ、数学的価値を持つに至ります。ラマヌジャンは、この「証明」をとばして、一気に結論を提示しました。
(中略)
彼の才能に目を付けた数学者ゴッドフレイ・ハロルド・ハーディは、ラマヌジャンをケンブリッジ大学に招きます。しかし、二人の関係はうまくいきません。ハーディは「証明」を求めます。
(中略)
ケンブリッジ大学の数学者とラマヌジャンの対立は、主格と与格の対立だと私は考えています。近代数学の「証明」は、主格的です。「私が論理的に証明する」ことが、数式に意味を与えます。それに対して、ラマヌジャンの数式は、「私に神からやって来るもの」です。私という存在は、神から届くものを受け止める「器」にすぎません。神は夢の中に現れ、時に舌の上に数式を置いていきます。ラマヌジャンは、それを書き留める媒介者です。
(中略)
近代日本を代表する数学者・岡潔は、「数学は情緒である」と言います。情緒は、与格的存在です。私たちの心に唐突に現れ、全身を駆け巡ります。(中略)ヒンドゥー教に、サラスワティーという女神が存在します。この神は学問や芸術、音楽をつかさどっており、仏教では「弁財天」として信仰されてきました。(中略)サラスワティーという神様は、「流れ」なのです。インドの人たちにとって、論理や芸術、音楽は、すべて「流れるもの」であり、同じ女神への信仰に帰結します。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 与格-ふいに その2

 

神の存在を示すためには、大きく分けて四通りのやり方があり、それが本体論的証明、宇宙論的証明、目的論的証明、道徳論的証明です。

本体論的証明とは、神の定義からその存在を推論するものです。例えば、「最大に完全な存在者は、存在するという性質を持っている必要がある。これが神である」というアンセルムスデカルトの証明です。この証明は、神の概念だけでその存在を決定するという点で、他の証明と違います。

宇宙論的証明とは、世界や自然の運動や因果から、その原因としての神の存在を推論するものです。例えば、「全ての事物や出来事には原因があり、その原因の連鎖は無限ではなく、最初の原因があるはずである。これが神である」というアリストテレストマス・アクィナスの証明です。この証明は、世界や自然における因果関係を前提として、神を不可欠な存在とするという点で、合理的です。

目的論的証明とは、世界や自然の秩序や合目的性から、その設計者としての神の存在を推論するものです。例えば、「世界と自然の仕組みは精巧で規則的である。これは人知を超えた者の作用がなければ説明できない。つまり、神は存在する」というパレーウィリアム・クラークの証明です。この証明は、世界や自然における美や調和を観察して、神を創造者とするという点で、感覚的です。

道徳論的証明とは、人間の道徳的要求や義務から、その根拠としての神の存在を推論するものです。例えば、「道徳に従うと幸福になると考えるには、最高善を実現するために神の存在が必要である」というカントニューマンの証明です。この証明は、人間における良心や義務感を説明して、神を立法者とするという点で、倫理的です。

 

しかしこのような「証明」の視点では決定的に見失うものが存在します。たとえば直感や瞑想的なるものはそもそも非証明的なものなのです。

アインシュタインはヴァイオリンを趣味としており、モーツァルトの弦楽四重奏曲を愛好していましたが、

彼はアメリカの音楽評論家シャインバーグに対して「モーツァルトの音楽は、別の世界からやってきたものである。それは、私たちの世界とは異なる法則に従っている。それは、私たちの世界には存在しない美しさと純粋さを持っている。それは、私たちの世界には存在しない完全な調和を示している」と語ったといわれています。

このアインシュタインの語りには相対性理論のような証明はありません、そして「別の世界からやってきたもの」「私たちの世界とは異なる法則」という表現はまるで科学的とはいえません。

しかしこれは彼の創造性の質が、一般的な創造性といわれるものとは次元が異なることを感じさせる語りなんですね。

 

ではここで一曲紹介です。今年も猛暑が続きます。澄み切った王菲の歌声を紹介です。

身体という楽器が生み出す呼吸のゆらぎ、声それ自体に宿るもの。王菲の声に宿る詩の生命力。「心経」の正式名は「般若波羅蜜多心経」と言い、仏教において最も少ない文字数に深い意味が込められた経典。

歌唱曲「心経」は2009年、王菲が陕西省の法門寺合十舎利塔の落成並びに仏指舎利安泰大典における大型の夜会「法門」のリハーサルで歌ったもの。⇒ 王菲が歌う「大唐玄奘」のMV「心経」を公開、玄奘に敬意を込めて

 

 

あり得ないはあり得ない

「触れる」というものは「問う」ことではない。哲学的思考であれ科学的思考であれ、触れることはない。

内界の自然と同様に外界の自然である宇宙のほとんどは「見えない」。観察が不可能な領域が一体どこまで広がってるかすらわからず、始まりの前のその根源がどのようなものかすらわからない。そして現宇宙にせよ「見ない何か」で満ち溢れている謎の場である。

トマス・ネーゲル「コウモリであるとはどのようなことか」の哲学的問い、そして「○○であるとはどのようなことか」の○○にあらゆるものが入る。

「コウモリであるとはどのようなことか」は生物学者ユクスキュルの「環世界」にも通じ、クワインのガヴァガイ問題、カントの「物自体」にも通じます。

人間の公理的思考もヒトの環世界の限界(原初のフレーム)の内部にとどまり、その外部あるいはさらに根源的な何かには触れえない。よって「ある人間の公理的思考によるもの」がいかに「真理」のように思えたとしても、それは常に絶対的根拠を持たない、持ちえない。

何かを絶対真理としてしてしまう在り方というのは「自らを自らで狭苦しくしている」ことでもある。観察者それ自体の前提によって「どのようなものか、どのようなことか」が決まるだけで、常にそれ自体は知りえない。

その意味では、哲学、科学は宗教やオカルトを(根源的には)超えられない。どのようなアプローチでも絶対真理はわからないし、世界を語り尽くすことはできない。

「我」は地球ではない場所、銀河ではない場所でも生起しうる。そして宇宙が無限であると仮定すると、「無限の猿定理」は成立し、「ヘンペルのカラス」は覆されます。

宇宙が無限で法則も無限にあるのであれば「あり得ないこと」は存在せずあらゆるオカルトも成立しうる。

そして現在わかっている「宇宙史」、人間に観測可能な範囲の宇宙観などというものは、しょせん人間の考えたことに過ぎず、『「我」はほとんど期間存在して無かった』などなどいうのはそもそも絶対的な根拠はない。

 

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