疑似相関的論法 スティグマと思い込み
今回は前半で「疑似相関的論法」、後半で「スティグマと思い込み」をテーマに考察しています。
前に会った精神科医の人が言ってた「ネットに悪評を書き込まれてない精神科医は三流ですよ。一流は必ず悪評を書き込まれる。なぜなら、それこそが本当にキチガイを相手にしているという証左だから」という言葉、戦闘機の装甲のどこを厚くすべきか問題みたいですごい学びがあった。
引用元 https://twitter.com/inaniwan/status/1213039829711294465
↑これ自体は一部は事実基づいた話なのかもしれないし実際にややこしいクレームや根拠なき悪評というのは存在するので特に否定はないのですが、これを全てのケースに当てはめると疑似相関的論法になります。
「一流が悪評を書き込まれる」ことが確かに事実としてあっても、「ネットに悪評を書き込まれている=一流」とは限らないわけです。悪評が正しい場合だってあるわけですね、
精神科医でも精神を病むし犯罪も犯します、教師でも苛めやわいせつな行為をしますし、警察も犯罪者になることはあります。また一流だろうがなんだろうが人間は誰でも間違えることはあります。
〇 人権侵害が蔓延する「ブラック精神科」ついに患者たちの反撃が始まる
〇 統合失調症患者ら虐待疑い 兵庫、元看護助手ら6人逮捕
〇 神奈川県警巡査が特殊詐欺受け子で逮捕 飲み屋や風俗で浪費する警察官たちに忍び寄る「魔の手」
〇 さいたま殺人、容疑者は犯罪心理学専門の文教大准教授 別居中の妻を襲撃か
これは前回書いた「あなたは私が○○だからそうするんでしょ」論法、と類似していますが、
何かの問題があって生じている批判を根拠なき悪評と同一視しないことです。そういう姿勢は「自分たちには何の問題もない、我らは正しい」で片づけたいだけでしょう。
「悪評を書く者は狂人」でひとくくりにし、逆に「書かれた者は一流」とひとくくりにするこの短絡的な断定は、「自身の評価と立場を守りたい側にとって都合がいい解釈」なんですね。そして「言ってはいけない言葉」というのはその職業・立場に応じてあるものだと思います。
精神科や心理のプロの専門家が精神を病んでいる患者側に対して「キチガイを相手」という表現をしたり拡散すること自体が三流でしょう。
同じく「いつの時代も正しいことを言った人間は最初は一定層に嫌われるが、後の世では世界に広く認められたのだ」を、「嫌われているのは正しいから」そして「今嫌われていてもいつかはその正しさが認められる」と接続する、という疑似相関的な用い方もよく見かけます。
そうやってたとえば活動家は疑似相関的にキング牧師やガンジーなどと自身の活動を結び付けたがります。
しかし何か大きな物事の達成には、嫌われていた以外の様々な要素が含まれています。キング牧師やガンジーにみられる突出した他の要素は見ず学ばずに歴史的存在と安易に同一視するのは傲慢で失礼なんですね。
今嫌われているのが「正しい」ことが原因かどうかはわからないし、「いつかは理解され認められる」というのも決まっていない。そのままだとずっと嫌われるか、あるいは「己が正しさ」を妄信し傲慢な権威主義者やカルト教祖みたいになっていくだけかもしれない。
スティグマと思い込み
この星ではクマに襲われる確率よりもスズメバチに襲われる確率の方が高い ⇒ スズメバチに気をつけろ!とかいわれているが、日本において一番人の命を奪う生き物はニンゲンで、
なのにニンゲンに気をつけろ!とはいわないのです。
またこの星は、無職、ひきこもり、精神障害の人を危険視してレッテルを貼り「何をしでかすかわからない異常存在、あるいはその可能性のある予備軍」という風に忌み嫌い排斥しますが、殺人事件でその半数以上が「親族間殺人」であり凶悪犯罪も8割以上が精神障害ではなく一般人による犯行です。
また性犯罪、例えば痴漢は、ひきこもりや独身オタクが引き起こすよりも「四大卒で妻子がいるサラリーマン」という「ごく普通の感じの人」に多いんですね。
そして何か事件とかある度に「また無職か」とそんな風に「無職者」「失業者」を常に悪くイメージすることも多い世間の思い込みですが、
「強姦」「強制わいせつ」の場合、約8割は「働いている人」か、「学校に通っている人」で、「無職者」「失業者」は全体の2割に届かないんです。やたら加害だけがクローズアップされますが、自殺の6割弱は無職者です。
痴漢は異なりますが、学歴と犯罪率は相関するか?といえば相関します。そして「性別」で見れば犯罪は明らかに男性に多いのです。
ただ、ここには複数の因子、力学が存在し、学歴が低いことによる社会の個人への扱い方、それは精神的な負の作用である「スティグマ」だけでなく、報酬・社会的評価という物質的・環境的なものが含まれています。
そして児童期から男性に課せられた「社会全体からの役割期待」がさらに「男性」を追い込むわけですが、「行為者-観察者バイアス」によって、他者は無意識に単純化・類型化されてしまうわけですね。
行為者-観察者バイアス (Actor–observer bias)
人間は人の行動を根拠なくその人の「種類」によって決定されていると見る傾向があり、社会的かつ状況的な影響を軽視する傾向がある。また、自身の行動については逆の見方をする傾向がある。
引用 ⇒ http://lelang.sites-hosting.com/naklang/method.html
「複雑系の力学で現象化している負の現象」はある属性に原因の全てが自己完結しているのではなく、特定の属性の「眼差し」だけが他の属性を追い込んでいるわけではないのです。
双方の「眼差し」が無意識に対象となる属性を追い込んでいるのです。相互作用なんですね。なので問題の原因を単一の属性に還元することは出来ないんです。
分かる。ジェンダーの話、男性はAll or Nothingの生きづらさ、女性はSomething, but not everythingの生きづらさがあると思っている。だから女性ばかりが生きづらいという論調には同意しかねるスタンス。
https://t.co/JvYyZzfPLL
— makicoo (@makicooo2) March 12, 2020
「競争で負ける」、「社会的地位が低い」、「レールから外れる」、「大きな社会的失敗」などによって著しい存在価値の低下や尊厳を奪われる、物質的・社会的報酬の低下に対する強迫観念の強化傾向、
そして問題を解決できない時 ⇒ 「孤独と絶望」が与える強いストレス ⇒ 判断力の低下 ⇒ さらなる悪循環 ⇒ 学習性無力感 ⇒ 反動or退行 ⇒ 「自殺か他害か」の二者択一的思考へ ⇒ ジエンド。
「可愛そうな状態」は、子供や女性にとってそれは同情や共感や社会的協力に繋がることは多くても、男性には多くの場合屈辱しかもたらさないのです。よって結局、「男は黙ってサッポロビール」なのです。
いくら建前で同情されても、現実はそうではないことを経験的に痛いほど知っているからこそ男性は「可愛そうな状態」を認めれない。
何故自殺が男性に多く、何故他殺も男性に多いのか、それは男性という属性のみに完結できない社会全体のコインの裏表なんですね。
〇 貧困地域に住む男性はほかの地域に住む男性より50%以上うつ病のリスクが高くなるが女性には影響がないと判明
〇 白書もスルー? 40、50代男性の自殺率の高さ 幸福度は内乱国並み、男の幸せはどこにある
自殺率が最も高いのは50代、40代の男性、過労自殺に関しては40代の男性がトップだが、世間は「若者」「女性」にはスポットを強く当てても「中高年の男性問題」には殆どスポットを当てない。
「勉強しないとああなるよ」みたいな見下した目線、そして「こんな仕事・職種はダメだ、つまらない」とか、「あんな職場・現場は~」とか蔑むような否定性を感じる物言いをよく聞きますが、
他者の仕事や人生をサゲ↓て自分の仕事や人生はアゲ↑る、というようなさもしい在り方はやめましょう。世の中あなたの仕事・職場だけがあればいいわけじゃない。
この↓CMのように「世界は誰かの仕事で出来ている」んです。そのおかげで今日も街は日常は生活は滞らずに何とか回っているんですね。
つまり、怪しげではない一般人、そして身近な親族に殺される確率の方がずっと高い。よって言うべきは「家族と普通の人に気をつけろ!あいつ等何するかわからないぞ!」である。
そして実際に、精神障害のある人は、障害のない人に比べて暴力の被害を受けやすい、のです。
【引きこもりと精神障害と無職と犯罪】 より引用抜粋
(前略)
実際のところ引きこもってる人より、引きこもってない人の方が1000倍ぐらい犯罪を犯すわけだから、引きこもってない人達は犯罪予備群だと言えるし、引きこもりは犯罪抑止因子と言ってもええんやで。そういう意味では、犯罪を犯した人における精神障害の割合は0.7%で、犯罪を犯してない人々における精神障害の割合2.4%よりずいぶん低いので、精神障害は3倍ぐらい犯罪を抑止すると言える。
ついでに言えば、犯罪犯す人の72%は無職ではない人(有職者46%,学生11%,主婦3%,年金生活者11%)であって、無職者は犯罪者全体の28%程度
(中略)
じゃあ「凶悪犯」と呼ばれる犯罪に関してはどうなの?というと、凶悪犯における精神障害者の率もやはり4%(疑いを入れても7%)で変わらない。つまり人間は、精神障害なんか無くても、凶悪に犯罪を犯せるんだよ。93%ぐらいはそうだよ、ってこと。
いくらか精神障害の関与が多いとされるのは放火と殺人だけど、放火は80%以上の放火が精神障害が”無い”人によってなされており、殺人も87%が精神障害が”無い”人によってなされている。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)引用元⇒ 【引きこもりと精神障害と無職と犯罪】
【参考:平成29年の犯罪統計】
https://www.npa.go.jp/toukei/soubunkan/h29/h29hanzaitoukei.htm
よく「統合失調症」も凶悪犯罪と安易に結び付けられるが、統合失調症の人は加害者より被害者(一般人からの暴力)になる確率の方が14倍も高い、という報告もあり、やはり世間の一方的な決めつけによるスティグマの強化は根深いな、と思います。
「統合失調症と暴力 」より引用抜粋
(前略)
統合失調症の罹患者は、他者に向ける暴力よりも、自分自身を害する恐れがはるかに高い。暴力は、統合失調症の症状ではない。ニュースや娯楽メディアは、統合失調症を含む精神疾患を刑事の暴力と関連付ける傾向がある。
(中略)
統合失調症のある者は、地域社会における暴力の被害者になるリスクが間違いなく高く、加害者として逮捕される確率よりも14倍高い。統合失調症のある者は暴力を犯すよりも暴力の被害者になり易いのだが、いくつかの精神病における暴力に関して 1990年以降に発行された文献の大半は、被害よりも加害に焦点を当てている。
いくつかの精神病における暴力を査定した 1990 年以降の研究の内、31の研究は暴力的犯行に焦点を当て、暴力の犠牲者として重度の精神障害者に焦点を当てた研究は10のみであったことを Choe らは見
つけた。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)
引用元⇒ 統合失調症と暴力
スズメバチの十倍以上の危険性物なのでまずはニンゲンに気をつけましょう!外出の際はニンゲンに最大限の注意を!っていやいや家にいてもニンゲンがいますので、家の中も相当に危険です!とにかく注意を!!
メキシコで2017年に発生した殺人事件の件数は前年比23%増の2万5339件、東北大震災級の殺人数です。1000年に一度の大地震より怖い生き物、まぁそれがニンゲンです。
そしてメキシコはその後、さらに増えて3万人以上の「他人」をぶち殺しまくっていますが、日本は2万人以上の「自分」を殺しまくっていますので、ニンゲンの社会がニンゲンを追い詰めているという意味では大差ないです。
コロナよりニンゲンやニンゲン社会の力学の方が怖いです。体を殺したり精神を破壊させたりしますのでご注意を!
で一曲♪ 井上陽水で氷の世界 (ライブ)
「迷惑をかけるな」と「迷惑をかけていい」のパラドックス
精神障害を持つことで最悪なのは、人々からは普通の振る舞いを期待されることだ by ジョーカー
〇 「迷惑だ」と言いつつ「なぜ」を考えない 日本人、思考停止していませんか
本当に余裕がなく苦しい時、「人は人に対して気持ちの良い存在ではいられない」んですね。ですが「迷惑をかける」の中に「人を傷つけてもいい」「不快さを与えてもいい」は入っていないんです。
ですが心のバランスが取れなくなっている時の迷惑というものは、「人を傷つける可能性」「人を大いに不快にさせる」も含めて「迷惑をかける」なんです、本当は。
しかし、弱弱しい迷惑、「優しい弱者」のイメージでの「迷惑」しか肯定されないんですね、だから弱者も結局は「良い子」でなければいけないんです。
しかし「良い子」ということは、相手に配慮が出来て言動をコントロールできる状態であり、それは心のバランスが取れなくなっている人には難しい、
辛くて不安定で誰かに依存しなきゃいけない時は迷惑をかけていいよ、でも私を不快にさせないで、私を傷つけないで、疲れさせないで、良い子にしていて、というメッセージは、かなりきついでしょう。
きっと多くの根が真面目な人ほど、「頼るのはやめておこう」となるでしょう。
それでも仮にその難しい条件で出来ているとしたら、凄く無理をしているか、元々性格が穏やかであまり極端な情動の表出にはならないタイプだった、というだけで、
それを求めるくらいなら「迷惑をかけていいよ」なんて言わない方がいいんですよ、本当はちっとも迷惑をかけられたくない、わけだから。
そして態度の悪い子やストレスで擦れ荒れた心は、不愉快な「迷惑」を通してしか変化・成長できないプロセスは結局誰からも避けられ、許容されないまま孤独の中で完全に壊れるか大きな問題行動へと発達していくわけです。