ストレスとオキシトシン 自己肯定感と機能不全家族の愛着障害のスパイラル
今週は3回に分けて「愛着障害」をベースに記事を書く予定で、今日はその前半で「ストレスとオキシトシン」「自己肯定感と機能不全家族の愛着障害のスパイラル」がテーマです。
『「人間が幸福に生きていくうえで、もっとも大切なもの」それは、「安定した愛着」である』と精神科医の岡田 尊司 氏はいいます。ですが私は岡田尊司 氏の「愛着の理論」に関しては、半分くらいはそうだと考えていますが、全てがそうだとは思いません。
脳科学的に見ると、子供の頃に多くのストレスを一方的に受け続けた環境である場合、海馬や前頭葉の機能が低下してしまい、その結果「無力感」や「記憶力の低下」をもたらす、ということや、他にも様々な機能不全家族の影響による症状が知られています。
そして「愛情ホルモン」と言われるオキシトシンが今回のテーマのひとつですが、これは「親子」「人間関係」「心・精神のバランス異常」にも密接に関わるといわれているもので、
オキシトシンの受容体は中枢神経だけでなく、子宮、乳腺以外にも、腎臓、心臓、胸腺、膵臓、脂肪組織、という身体の広い範囲で発現が確認されています。つまりそれだけ心身への影響力があるものということです。
オキシトシンの受容体は、「子供の頃に親から愛情をシッカリ受けていると増える」ということなので、「愛情をシッカリと受ける時期」は子供にとって必要なことでしょう。
ですが「愛情のはき違え」が「過干渉」という「支配・依存」になるのであれば、それはまた別の意味で「自我の形成不全」の原因に繋がるでしょう。
心理学者「ケリー・マクゴニガル」は、一般的なオキシトシンの説明とは異なる角度からこのホルモンの作用を語ります。
「でも多くの人が理解していないのは、オキシトシンがストレスホルモンだと いうことです。ストレス反応として脳下垂体がオキシトシンを放出するんです。」 – ケリー・マクゴニガル –
これは一体どういう意味でしょうか? その辺りを詳細に見ていきましょう。では以下にケリー・マクゴニガルのTED動画「ストレスと友達になる方法」を紹介します。
ストレスと友達になる方法
ストレス。そうストレスのせいで心拍数は増え、呼吸は速くなり、額にに汗が出て来たりします。しかし、ストレスが健康の敵とされてきた一方、ストレスが体に悪影響を及ぼすのはそう信じるからだ、と新しい研究が示唆しています。
心理学者ケリー・マクゴニガルは、私達にストレスを肯定的に捉える様にと促し、これまで知られていなかったストレスを軽減する仕組として、手を差し伸べ合う事を紹介します
追加更新(2018/7)
オキシトシンの作用に関する厳密な実験結果が報告されています。こちらはより新しい情報です。今回の記事と合わせてお読みくださいね。(実験結果の内容はリンク先にてどうぞ)
国立研究開発法人日本医療研究開発機構
「世界初 自閉スペクトラム症へのオキシトシン経鼻スプレーの治療効果を検証しました」 - 平成30年6月29日 プレスリリース浜松医科大学精神医学講座、山末英典教授(前東京大学准教授)は、金沢大学(責任医師:棟居俊夫前特任教授)、名古屋大学(責任医師:岡田俊准教授)、福井大学(責任医師:小坂浩隆教授)との共同研究チームにより、
医師主導臨床試験(※1)を行って、自閉スペクトラム症(※2)における対コミュニケーションの障害に対する初の治療薬として期待されるオキシトシン(※3)経鼻スプレーの有効性と安全性を世界で最初に検証しました。
– 追加更新 – ここまで
以下はケリー・マクゴニガルのTED動画の中の「ストレス」と「オキシトシン」に関する重要な部分をまとめたPDFからの引用・抜粋です。
<ストレスと助け合いオキシン>
オキシトシンは 、他の人々と親密な関係を強めるような行動を促します。オキシトシンは 、家族や友達との身体的な接触を望むようにさせたり、人との共感を高めり、人との共感を高め私たちが大切に思う人を助けたり支えたいと思わせもします。実験的にオキシトシンを 点鼻薬で投与されると、金銭取引で相手を疑うこともなく、だまされてしまいます。自閉症のアスペルガー症候群の被験者が、主治医の目を見て話すなど、知的障害者にも社会性を高める強い効果を発揮しました。 でもこのホルモンについて あまり知られてないことがあります。
ストレス反応の一環として 脳下垂体を経て血液中にオキシトシンが分泌されます。 これはアドレナリンが 心臓を高鳴らせるのと 同様にストレス反応の一環です。
オキシシンが分泌されると、誰かに支えてもらいたいと感じる反応が生まれす 。ストレスから生じる生物学的反応は、 あなたが誰かの助けが必要な状態にいることを、あなたに気づかせるように分泌されているのです。
お互いが助け合うことで、 困難な状況を愛する人たちと一緒に 乗り越えられるように仕向けているのです 。
(中略)
実はオキシトシンは脳だけに働くのでなく、身体の他の部分にも働きかけます。その主な役割の1つは、心臓や血管系をストレスの影響から守る抗炎症作用です。ストレスを感じても血管リラックス状態に保ちます。 特に良い影響が心臓で起ります。 このホルモンを受け取る受容体が心臓にあり 、ストレスで起きる心臓のダメージをオキシトシンが修復します。
社会的繋がりや支援があると 、オキシトシンの効果 、オキシトンの効果は強くなります。 ストレス下の人に手を差し伸べ 、助けられたりすると 、このオキシトシンがもっと分泌され 、人間関係が強くなり健康になります。その結果、ストレスから早く回復することになります 。
ストレスが身体で起こす反応には、ストレスから回復するための機能が内蔵されていて、その機能は人と人との繋がりを支えにして成り立つのです。なんと素晴らしいことでしょう。
参考PDF ⇒ ストレスと友達になる方法 「オキシトシンを利用する」ケリー・マクゴニガル(スタンフォード大学 心理学者) Kelly McGonigal 2012年の講演
自己肯定感と機能不全家族の愛着障害のスパイラル
オキシトシンの作用やそのメカニズムはともかく、心理学者「ケリー・マクゴニガル」が言うように、「ストレスが有害な作用になるかならないか」に関しては「そう信じるか信じないか」という「受け取り方の問題」というのは確かにあるでしょう。
ですがやはり全てがそれだけではなく、その時点での心身の状態にもよるでしょう。本当につらい時・心身の限界もあります。
過去記事の後半で書いたことですが、「内的な状態」と「外的な負荷」がどのような関係性にあるか?という点も、「ストレス」「干渉」の作用が「正負のどちらになるか」を変化させ、また「受け取り方」にも相互に影響を与えているからです。
過去記事の引用 - ここから –
「内的な状態」が機能不全だったり、不調和だったり硬直性の強い状態である時は、「ストレス」も「干渉」も逆にマイナスに働きます。
これは正確には、「ストレス」を感じさせる対象・現象や、外的な「干渉」が、本当にマイナス作用だけしかない、ということは少なく、 実際は「対象・現象がマイナス作用に感じられることが多くなる」と言った方がよいでしょう。
自己の癒しと存在の調和回復に向かう時は、マイナス作用から一旦離れていた方が良く、まずは「ただ在る」ことへの自己肯定感を回復させます。これは自然自我の回復なんですね。なので「個」を重視します。
そして内的に調和バランスが回復して「自己実現」に向けて世界と関わって いける気力が出てくる段階になったら「ストレス」も「干渉」も含めて「同 時に在る」という、シッカリしたバランス状態へ向かっていきます。
これは社会的自我の調和回復ですね。なので「自他」を含めての全体的な調和を重視します。 – 引用ここまで –
自我の成熟は、自他が分離している現実認識からスタートするわけですが、「人はみな同じではなくひとつではない」という自他分離からスタートし、成長させていくには「自己肯定感」がベースに必要なんですね。
ですが幼少期・児童期に「自己肯定感」が少ないと、自己愛で肯定感の不足を補い安定化させようとするために、自他分離ではなく「自己分離」してしまうんです。
そのため、「自己を分離させて、あるいは壊してまで相手に合わせる」ようなことを無意識的にしてしまうのですが、そのような分離した自己は認知的不協和を強めていきますので、葛藤によるストレスから一方を抑圧化し一方を肥大化させます。これによって「慢性的な自己不全感」が生じます。
「心と身体は同じひとつの全体性」であるため、「自己不全感」の状態が慢性化することは、脳内の神経伝達物質の異常、機能不全とも相互作用しています。
自然に育まれた自己肯定感は、「肯定と否定がバランスしたままそのままで在ることが出来る」ため、健全な人は「自分を分離させて、あるいは壊してまで相手に合わせる」ようなことは、余程の理由がない限りまずしません。
また多少無理して不安定になっても、「不安定に気づいてちょっとバランス修正するだけで簡単に安定する」のに対して、
自己愛優位でバランス化された肯定感は、ユング的に言うならば、肯定と否定が分離化し、否定側がシャドーを強化し無意識下に抑圧人格を形成強化し、肯定側がペルソナ(仮面的人格)を形成強化しているため、 自己欺瞞性と正負の内的な解離を広げ強化しているわけですね。
そのため、 「安定するためにしていることが、逆に不安定さを強化する」というパラドックス状態に陥り、その自己矛盾したスパイラルに自ら落ちていきます。「心の安定」を脳科学的に見るならば、機能不全の人と健全な人ではある部分が「反転」しているともいえます。
「健全な心身には十分にあるもの」が、「殆どない」「少ない」「バランス異常」のために、健全な人がしなくていいことをする必要があったり、健全な人がする必要があることを逆に不必要だと思ったりします。
通常の人間関係だって「内的に自然にバランス補正出来る」、それが健全な人の感覚ですね。 反応が極端に分離的にはならないのです。
そして先天的な機能異常及び長期にわたる後天的な機能不全がある場合、自律的なバランス修復が出来ないため、何らかの依存対象が継続的に必要になります。それは必ずしも「人」だけとは限りません。
そして「依存対象」がさらに依存性を強めるような対象である時、あるいは、さらに機能不全を強め心身を不安定にする時、「安定するためにしていることが、逆に不安定さを強化する」というパラド ックス状態に陥り、中毒性の負のスパイラルになるんですね。
そして麻薬中毒と同様に「もっと強い刺激」が必要になるわけです。そしてこの「無意識の渇望、欲求」が、同質の傾向を持つ「依存対象」を呼び寄せ、共依存のスパイラルに突入していくこともよくあります。
そして現代社会はそういう負の要素を刺激する作用の方が強いと分析しているわけです。だから心身のバランスを崩す人が減らない、そして逆に増えているのです。
オキシトシンやセロトニンをはじめとする脳科学・脳内物質も部分的には重要なファクターでしょう、ですが、何故脳内物質、及び心身のバランスが崩れたのか? という過程、「遺伝・環境・生活・関係性」などの本質的な歪みを見なければ、
サプリみたいにただ薬を飲んでハイ全て解決、という表面的な対策になりかねません。対応としてはそれも必要ですが、実際にそれだけでは全然解決になってはいないのですね。
アディクションからの回復途上です。ACでもあり、自己否定感や承認欲求が根底にあります。恐れも強いです。子供時代を振り返り思い出したのですが、母は母乳がでなかったのでミルクで育てられました。オキシトシンは、確か母乳分泌に関わるホルモンだった様に思うのですが、愛着関係の形成とオキシトシンはどういう関係があるのでしょうか。