「条件付け」の科学的検証 強迫性障害(行動主義心理学・行動療法・認知行動療法) 

 

ico05-005 われわれはいろいろなことをするが、なぜそうするのかは知らない。(アインシュタイン)

 

「人間の行動を変容させるもの」は何でしょうか?今日は「条件付け」の科学的検証で、強迫性障害レスポンデント条件付けオペラント条件づけをメインテーマに、行動主義心理学・行動療法・認知行動療法に関する記事を書いています。関連する情報(PDF・動画)なども複数紹介しています。

 

記事の終わりの方に「認知行動療法」の基礎が学べる動画を紹介していますので、どうぞ参考にしてください。また補足記事として、「教育/しつけ」と「洗脳」の違い も書いています。

 

 

強迫性障害(OCD:Obsessive Compulsive Disorder)とは『強迫観念』『強迫行為』からなります。

 

強迫観念

それがつまらない、ばかげていると理解していても自分の意思に反して不合理な思考・イメージが繰り返し頭に浮かんで、抑えようとしても抑えられないのです。

 

強迫行為

「強迫観念」による不安を打ち消すために無意味な行為を繰り返す強迫行為(反復強迫、確認強迫、整頓強迫など。)

 

また強迫関連障害として「強迫的溜めこみ」があり、たまにテレビで報道される「ごみ屋敷の住人」の「一部」にもおそらく強迫関連障害の方がいるのでしょうね。以下の記事も参考にどうぞ。

 

ゴミ屋敷の住人は精神疾患なのか、それとも、心の傷のせいなのか(ホーディング障害・買いだめ障害・溜め込み障害、ディオゲネス症候群) その1

 

 

「条件付け」の科学的検証

 

ではまず「ドーパミンの脳内報酬作用機構の解明」に関する最新の研究結果報告の紹介です。

東京大学の「脳科学研究戦略推進プログラム」の研究により、ドーパミンの脳内報酬作用機構が解明されたことで、行動の「条件付け」が起きる分子細胞機構が世界で初めて明らかとなった。 

側坐核は、依存症、強迫性障害などと密接に関係するため、本成果は、精神疾患の理解・治療に新しい展望をもたらすと期待される。引用ここまで – (続きは以下リンクより)

 引用・参考元 ⇒ ドーパミンの脳内報酬作用機構を解明 〜依存症など精神疾患の理解・治療へ前進〜

 

上記の研究結果報告は、「オペラント条件づけ」の部分的な証明になるような意味合いも含まれているように思いますが、その他、この研究結果を読んで感じたことなのですが、

 

薬物・ギャンブル依存症も「わかっちゃいるけど、やめられない止まらない」という点で、強迫性障害と共通性はありますが、ただドーパミン系・報酬作用のみで強迫性障害を説明しきれるものか?に関しては実体験による感覚上、多少疑問はありますね。

 

主観的に感じられる自我運動の質には違いを感じるわけです。まぁその辺りのことはまた次回に書きますね。私のおばあちゃんも母も、ある種の強迫性障害の特徴を有していて、私自身も十代から二十代にこの傾向が見られましたが、

 

双極性障害とADHDは40〜80%程度が併存することがあるのは専門家の間ではよく知られていることで、さらに双極性障害は強迫性障害とも併発しやすい(15%程度)といわれています。(>_<)

 

図・引用元 ⇒ 双極性障害の対人関係-社会リズム療法(IPSRT)による治療〜その2・合併症

 

 

そして双極性障害だけでなく、強迫性障害は広汎性発達障害や他の不安障害やパーソナリティ障害などと併存して現れることも広く確認されています。

 

 参考PDF  広汎性発達障害を伴う強迫性障害の特徴についての研究

 

 

私自身は、「強迫性」「強迫観念」というものが様々な心・精神のバランス異常に深く関連していると実感しています。母は双極性障害の症状だけでなく、パニック障害も併発することがありましたね。

 

 パニック障害診断テスト その1 DSM-Ⅳ-TR 診断基準

 

以下リンク先の精神科医の作成によるチェックシートでざっくり確認しても、やはり私は過去に酷い心・精神のバランス異常になっていた当時「中程度の強迫性障害」も併発していた可能性は高いです。

 

 強迫性障害診断テスト その1 DSM-Ⅳ-TR 診断基準

 強迫性障害診断テスト その2 診断テスト

 強迫性障害診断テスト その3 OCD(強迫性障害)評価尺度(Y-BOCS)

 

強迫神経症(強迫性障害)の症状と原因」より引用抜粋

強迫症状はうつ病、統合失調症(とうごうしっちょうしょう)など、の精神疾患でもみられるため、それらとの鑑別が必要です。脳炎、血管障害、てんかんなど、脳器質性(のうきしつせい)疾患でもみられるので、

これらが疑われる場合は鑑別のための検査(血液・髄液(ずいえき)どの検査、頭部CT、MRIなどの画像検査、脳波検査など)が必要になります。

(中略)

治療の方法

治療法には、薬物療法と精神療法があります。 薬物ではSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:フルボキサミン〈デプロメル、ルボックスなど〉)、クロミプラミン(アナフラニール)、

ベンゾジアゼピン誘導体(クロナゼパム:リボトリール、ブロマゼム:レキソタンなど)、症状が重い場合は少量の抗精神病薬も用いられます。有効率は50%前後です。

精神療法では、「曝露反応妨害法(ばくろはんのうぼうがいほう)」呼ばれる認知行動療法が有効です。強迫症状が出やすい状況に患者さんをあえて直面させ、かつ強迫行為を行わないように指示し、

不安が自然に消失するまでそこにとどまらせるという方法です。適が限られ、まだ専門家が少ないのが難点ですが、薬物と同等以上の効果があるといわれています。

引用ここまで – (続きは以下リンクより)

 引用・参考元 ⇒ 強迫神経症(強迫性障害)の症状と原因

 

上記の記事にエクスポージャー(曝露反応妨害法)が紹介されていますが、これは系統的脱感作法フラッティングなどの行動療法の治療法の構成要素ですが、「暴露反応妨害法」って?方のために、すごく簡潔にわかりやすくまとめてある以下のPDFを紹介しておきますね。

 

 参考PDF ⇒ 強迫性障害の治療法

 

病気であることを知らなかった私は、こういうものを、一切の形も指導もないままに「本能」で試行錯誤して過去にやっています。

 

経験上、私のような自力の試行錯誤のエクスポージャー、フラッティング系の取り組みは、人によっては非常に危険なので真似はしないでください。専門治療の枠組みの中で指導の下に行ってください。

 

また、逆説志向(ありのまま・そのままを受け入れる)思考中断なども同様で、軽症の人ならともかく、中~重症に人にとっては専門治療の枠組みの中で指導の下に行う方が安全でしょう。

 

その他の参考記事 ⇒ SSRIで著効しない強迫性障害、次の一手は

 

 参考PDF (脳科学)続 脳と精神

 

森田療法的なアプローチも有効なので参考PDFを紹介しておきます。

 

 参考PDF ⇒ 雑念恐怖症の諸相〜森田療法の観点から〜

 

 

行動主義心理学(行動科学)

 

生理学的実験による古典的条件付け理論レスポンデント条件付け)、パブロフの「生理的な条件刺激に対する条件反射」を「人間の行動」に一般化しようとしたのがワトソンの行動主義「S-R理論(S=激 R=反応)」ですが、

 

人間はこの公式が全て成り立つほど単純な生物のパターン反応で説明出来ないため、ハルトルーマンによる「S-OR理論(S=刺激  O=媒介変数/ 生活体   R=反応)」 などに発展し、やがて心理へと発展していきます。今回のテーマと関連する内容を図や写真を用いてわかりやすくまとめてあるPDFを以下に紹介しますね。

 

 参考PDF ⇒ 行動心理学入門 東京大学総合文化研究科 理化学研究所 脳科学総合研究センター

 

 

 

パブロフの犬の条件反射のような現象をスキナーは「レスポンデント条件付け(古典的条件付け)」と定義しました。「レスポンデント条件付け」は脳科学的には「脳幹や大脳辺縁系が主に関与する受動的反応を扱うもの」と言えるでしょう。

 

 

US=無条件刺激 (生得的) CS=条件刺激 (習得的)UR=無条件反応(生得的)  CR=条件反応(習得的)NS=中性刺激

 

好子※注1」による犬のレスポンデント条件付けの例 ➀

 

『 US/無条件刺激=(肉)』 『 UR/無条件反応=(肉 ⇒ 液)』『 CS/条件刺激=(チャイム)』 『 CR /条件反応=チャイ ⇒ 唾液)』

 

これは『 NS /中性刺激=チャイム 』『 US/無条件刺激=(肉)= 好子と対提示されることでCS/条件刺激に変わり、『 CR /条件反応=チャイム ⇒ 唾液)』を誘発した、ということです。

 

嫌子※注1」によるレスポンデント条件付けの例 ➁

 

『 US/無条件刺激=(元カレによる精神的・肉体的暴力)』 『 UR/無条件反応=( ⇒ 痛み・恐怖)』『 CS/条件刺激=(男性)』『 CR /条件反応=(男性 ⇒ 恐怖)』

 

これは『 NS /中性刺激=男性 』『 US/無条件刺激=(元カレによる精神的・肉体的暴力)= 嫌子と対提示されることでCS/条件刺激に変わり『 CR /条件反応=(男性 ⇒ 恐怖)』を誘発した、ということです。

 

注1嫌子/好子」と対提示された刺激 ⇒ 「元は中性的な刺激」を「好子」や「嫌子」に変える。 詳細⇒ いろいろな好子と嫌子

 

CS/条件刺激提示後の時間間隔を大きくせずUS/無条件刺激を提示する(随伴性のある提示)⇒  CS/条件刺激とCR /条件反応を強く条件付ける。

 

レスポンデント消去の方法

 

例 ➁の場合だとCS/条件刺激(男性)のみを提示し続ける。そうすると中性刺激(男性)と無条件刺激(元カレによる精神的・肉体的暴力)との関連 -結びつきが弱められ、条件刺激(男性)⇒ 中世刺激(男性)に戻り、その結果CR /条件反応(男性 ⇒ 恐怖)を誘発しなくなる。

 

 「高次の条件付け」と消去の方法

 

例えば元彼氏による精神的・肉体的暴力を受けていた女性が、「他の中世刺激」が関連事象(引き金)になって恐怖が出て来るような場合、それを「高次の条件付け」といいますが、

 

この場合は無条件刺激である「元彼の精神的・肉体的暴力」、そして元の条件刺激である「男性」以外にも「複数の条件刺激」が存在しているのです。

 

これはトラウマなどのフラッシュバックにもよく見られ、例えばトラウマとなった出来事と関連付けられた感覚刺激(音や匂い)などによってもフラッシュバックが誘発されることがあります。

 

このような場合は、「複数の条件刺激」と対提示せずに「元の条件刺激」のみを何度も繰り返し提示することで、不適切な条件付けとなっていた「元のUS-CSの条件付け」が弱くなる、ということですね。

 

 

拮抗条件付け」は、条件刺激(CS)に対して拮抗する新たな無条件刺激(US)よって「別の条件付け」を行い、例えば「嫌から好き」という条件付けの状態に変更する。

 

「レスポンデント学習と行動療法」に関する参考PDFと動画を以下に紹介しておきますね。(動画は一時間以上あるので、時間のある時にでもゆっくりご覧ください。)

 

 参考PDF ⇒ レスポンデント学習と行動療法

 

認知行動療法の基礎と展開3

 

 

オペラント条件付け

 

スキナーのいう「オペラント条件付け(道具的条件付け)」は、E. L. ソーンダイクの「試行錯誤学習」の研究を元に定式化された原理で、動物にとって随意的で身体的に可能な反応であれば、どのような反応も条件付けることが出来るとされ、

 

例えばこの原理を応用し洗練した実践的な取り組みは、技能訓練、不適応行動の改善、障害児の療育プログラム、リハビリテーション、e-ラーニングなどの幅広い領域で行われています。

 

 

自発的・主体的行動の直後に、報酬(快の刺激)を与えると、その行動を繰り返し起こし= 行動強化し、罰(不快の刺激)を与えると、それを回避しようとする学習活動による「刺激統制」を使った条件付けがオペラント条件付けですが、

 

オペラント条件付けを強める外部の刺激・条件を「強化子」と呼び、強化子には、報酬 = 正の強化子(好子)罰 = 負の強化子(嫌子)があり、

 

オペラント反応を増減させる環境中の手がかりになる刺激が「弁別刺激」で、「弁別刺激・反応・反応結果」からなる連鎖のことを「3項随伴性」といいますが、「3項随伴性」の設定と操作が、オペラント条件付けの手続きの最重要ファクターとなります。

 

これはマズローの「欲求階層説」にも通じますが、正の強化子には、一次性強化子より生物学的な本能的欲求の充足)と二次性強化子より社会的な欲求の充足)があります。

 

◇ 行動随伴性オペラント行動とその直後の状況の変化との関係

 

行動随伴性には、以下の4種類がある。

1. 好子出現による強化(正の強化)
2. 好子消失による弱化(負の弱化)
3. 嫌子出現による弱化(正の弱化)
4. 嫌子消失による強化(負の強化)

 

以下に紹介のPFD論文は,言語行動と情動行動の関係を中心に、解釈による意識上でのレスポンデント条件付け,および,オペラント手続きの変換ついて考察し,解釈による条件付けの手続きの変換ルールを理論分析しています。  参考PDF   行動と認知の随伴性

 

「教育/しつけ」と「洗脳」の違い

 

「教育/しつけ」あるいは「洗脳」でもこれは使われていますね。例えば「アンカリング」での「アンカー」はNS=中性刺激に該当し、それによって特定のCR/条件反応へ誘導し、関連付けによる「高次の条件付け」によって認知を多層的に条件付けられ支配・制御・方向付けされます。

 

さらに、報酬(快刺激)⇒ 『正の強化子』と、罰(不快刺激)⇒『負の強化子』によって、特定の行動形成と発現へと条件付けするわけですが、通常の洗脳の場合はこの原理を取り入れ応用・悪用しています。

 

重度の「洗脳」の場合はさらに、例:カルト・過激な思想など)「病的退行」によって発現する原始的防衛機制による「過剰に分離化した自我意識」を、「教義・思想・観念」に深く「同化」させることで強化・肥大化させる過程があり、

 

それが重度の「洗脳」の過程なんですね。こうなるともう現実と幻想・妄想の区別さえつかなくなる、ということです。

 

認知行動療法

 

以上、ここまで書いてきたような「条件付けの原理」を使うことで、「適応的な行動習慣を新に条件づける=再学習する」ことは可能であり、その応用によって例えば「神経症の症状を消去する」ことも出来ますが、

 

「オペラント条件付け」が部分的に有効で様々なことに役立てられることは確かでも、学習には「外的な強化」が不要な場合もあり、「オペラント条件付け」は外界からの刺激なしで運動学習が生じるような「高度な学習」は説明できないし、

 

神経症の症状を含め、心・精神に現われる他の様々な病的症状を何もかも改善する、というようなことも当然出来ません。

 

ですが、「認知療法」と「行動療法」が合体して生まれた「認知行動療法」は、認知心理学に理論ベースがあり、それは脳科学、神経科学、情報科学、言語学、など様々な科学分野と結びついたもので、

 

今後その各分野の発展と共にさらに理論的な科学的精度を高めつつ、同時に方法としての進化・発展が期待されるものでもあります。

 

 

2016年4月~「認知行動療法」が保険適用へ!

 

認知行動療法の基礎と展開1~12

1~12までの講義動画が下記リンク先にてご覧になれます。いずれも一時間弱ある長時間動画なので、時間がある時にでもゆっくりご覧ください。

熊野宏昭 (くまの ひろあき)熊野宏昭プロフィール
早稲田大学人間科学学術院教授、 早稲田大学応用脳科学研究所所長に着任。 日本行動療法学会理事長、日本不安障害学会理事、日本心身医学会評議員⇒ 認知行動療法講義 HP




第1回「オリエンテーション」
第2回「認知行動療法の多様性」
第3回「レスポンデント学習と行動療法」第4回「オペラント学習と行動療法」
第5回「情報処理理論と認知療法」第6回「新世代の認知行動療法」
第7回「マインドフルネス認知療法」第8回「メタ認知療法」
第9回「神経行動療法への展開」第10回「臨床行動分析と行動活性化療法」
第11回「言語行動と関係フレーム理論」第12回「アクセプタンス&コミットメント・セ­ラピー」

 

 

◇ 関連記事の紹介

脳科学からみた運動学習

認知行動療法が役立つ場合、役立たない場合(草稿) in 精神科臨床サービス15巻1号 2015年2月 明日からできる強迫症/強迫性障害の診療Ⅰ

〇  認知行動療法(CBT)を一人でマスターする

 

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