動物心理学 動物のPTSD(虐待と孤独)とメタ認知の神経回路メカニズム  

 

今日は「動物のPTSD」と「メタ認知の神経回路メカニズム」、そして個体差のある野生動物の意識と行動をテーマに関連動画を紹介しつつ記事を書いています。

 

「野生の動物は心の病気になんてならない」、「動物に心・自我なんてない」、「そういう考え方は人間の思い込みに過ぎない」という思い込み、そして「複雑な脳を持つ弱い人間だけが心の病気になる」、という偏った思い込みもまだ多いですが、

 

逞しいオスのトラやオスのクマだって、傷つき、そして心を病むこともあるんですね。 ではここで記事と動画をひとつ紹介しますね。

 

「IRORIO(イロリオ)」 より引用抜粋

「ドラッグディーラーに虐待されたトラ、クマ、ライオン。自然界では慣れ合うはずのない3頭がレスキューされ、引き剥がすことの出来ない仲になる」

この3頭は12年前、幼獣であった頃に、ドラッグディーラーに虐待・ネグレクトされ救出されたのだという。
(中略)
救出時の3頭にはひどい傷があった。「ライオンのレオには鼻に大きな生傷があったし、クマのバルーには手術でなくては撤去出来ない、成長するにつれて皮膚に食い込んだハーネスが取り付けられていました。現在は完全回復しています」

当時、調教師が3頭を引き剥がそうとしたが、動物たちは抵抗。いつ殺し合いに発展する喧嘩が勃発するか心配していたそうだが、この3頭はいつも平和を保っているーー 

 

 

3頭のうちのクマとトラは雄であり、成長するとテリトリーを持つ“一匹狼”となるにも関わらず、だ。「幼い頃の苦しい体験が絆を作り上げたのかもしれません。

3頭には自分たちしかいなかった。慰め合うのはお互いしかいなかったのですから」とHedgecoth氏は、異種の彼らがどうやって長い間良好な関係を保ってきたかの理由を推測する。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元 ⇒https://u-note.me/author/sakiyama/20130517/58928/

 

何故でしょう?オスのトラもオスのクマも、酷い目にあったのに本当にとても優しい顔をしています。まるで互いの痛みがわかるような、不思議な感じです。短い動画ですが、見ているととても癒される映像です。

 

次は、虐待によるPTSD症状ではなく、「孤独」によるトラウマが野生の象にどのような症状を引き起こすか?という記事の紹介です。

 

「ナショナルジオグラフィック ニュース」 より引用抜粋

「孤児になったゾウに“PTSD”の症状」

ゾウは高い知能と社会性を備えた動物で、特にアフリカゾウは、野生環境で生き延びるための高度なコミュニケーション能力に長けている。しかし、最新の研究によると、幼い頃に群れの年長者を失った上に、生息地を無理やり変えられた個体は、生まれ持った能力が低下している事実が判明した。
(中略)
幼年期に過酷な運命を余儀なくされたゾウたちには、人間の心的外傷後ストレス障害(PTSD)に相当する症状が見られるという。マコーム氏らによると、数十年前の移住が彼らにおよぼした悪影響であり、特に行動判断のプロセスに大きく作用しているという。
(中略)
今回、アフリカゾウのコミュニケーション能力に関する最新の研究結果を発表したのは、イギリス、サセックス大学で行動生態学の研究を行っているカレン・マコーム(Karen McComb)氏らの国際共同研究チーム。

自然環境保護の活動を続けている生物学者のジョイス・プール(JoycePoole)氏はこう話す。「模範となる大人が不在のまま成長したゾウと、経験豊かな統率者を持つ群れの中で育ったゾウとでは、危険に対する反応がまったく異なる」。

研究チームによると、ゾウや霊長類など高い知能と社会性を備えた動物の場合、幼少時の“トラウマ”が行動の発達に大きな影響を与える場合があるという。慢性的な恐怖心を抱く、過剰な攻撃性を示す、育児を放棄するなどの行動が認められる。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 孤児になったゾウに“PTSD”の症状

 

高い知能と社会性を備えた動物にとって、幼児期に本来在るべきものがない不自然・不適切な環境というものは、発達過程での歪み・欠落を生む要因になる、ということですね。

 

 

次も象に関する記事の紹介リンクですが、象の認知・識別能力の高さをうかがわせる内容です。象は人の声の違いを聞き分け、その人がどんな人であるか?そして危険があるかどうか?をちゃん識別しているんですね。⇒ 【ニュース】象は人間の声からどんな人か判断している

 

 

動物心理学 と行動シンドローム  個体差 のある 動物の意識と行動

 

次に紹介の動画は、動物の感性の個体差をとても感じる動画です。ステレオタイプな動物の行動・反応のイメージとはちょっと異なるユニークな動画です。リンク先にてご覧ください。Unlikely Animal Pairs Defy Laws of Nature

 

動物心理学の研究では,動物の性格が常に 一貫性をもつ均一な表現ではなく、ヒトと同じく「個体の内的要因と環境の外的要因の相互作用によって形作られる」という結果を見出してき ました。

 

動物のパーソナリティ(性格)に関しては、各研究によって立場の違いはあれ、基本的にヒトの心理学と同様の伝統的アプローチによって動物の性格を検証します。

 

そして「行動シンドローム」という概念は、進化生物学,動物行動学から提案された動物の性格概念を生物学の理論と手法に基づいて検証するアプローチです。

 

生物個体が同じ遺伝子型でも、その表現型を環境条件に応じて変化させる能力を「表現型可塑性」と呼びますが、これに対して環境に応じて個体が「行動を変化させる」こと を「行動可塑性」と呼びます。

 

「表現型可塑性」に関しては関連する過去記事を紹介しておきますね。⇒ 先天的?後天的? エピジェネティクスと心・精神の病(自閉症・発達障害・他)

 

また、「反応基準(規格)」という概念は、遺伝子型と環境条件の相互作用で表現型可塑性の枠組みを決定する、つまり遺伝子型による環境への応答の相違・範囲を条件づけるものです。

 

参考PDF ⇒  動物パーソナリティ心理学と行動シンドローム研究における動物の性格概念の統合的理解

 

ではここで、もうひとつ動物の癒し動画を紹介します。野生のネコの子供をあやしながら一緒に遊ぶチンパンジーの動画です

Chimpanzee and Puma Playing Together

 

 

メタ認知の神経回路メカニズム

 

メタ認知とは自己の認知活動を客観的に認知し把握することで、それをおこなう能力をメタ認知能力といいます。(質的に全く同じということではないですが、フロイトのいう超自我に関連し、またミードの客我・社会的自我にも関連すると考えています。)

 

メタ認知的なモニタリング及びコントロールは、脳領域としては前頭前に深く関連しており、行動するときに、起こした行動が正しいか間違っているかをモニターし、 必要があれば行動を修正します。

 

そして私たちの脳は、必要な事柄を一時的に覚え、必要となった時にその情報を呼び出して実行に移す機能「ワーキングメモリ」を備えています。

 

そしてメタ認知能力は、ヒトや類人猿・イルカなどの発達した脳を持つ動物だけにあるとされてきましたが、最近ではそれ以外の動物、例えばマウスのような小動物にもメタ認知能力が存在すると考えられています。

 

その神経科学的なメカニズムも徐々に解明されつつあります。以下に紹介の記事は、理研脳科学総合研究センター(利根川進センター長)RIKEN-MIT神経回路遺伝学研究センター利根川進研究室の山本純研究員、ジャンヒャップ・スー研究員、竹内大吾研究員、利根川進センター長らの研究グループの成果です。

 

海馬-嗅内皮質間の同期性は記憶を意識的な行動へ変換する過程に重要-より引用抜粋

「「メタ認知」を支える神経回路メカニズムをマウスで立証」

理化学研究所(理研、野依良治理事長)は、脳波の一種である高周波ガンマ波[1]が脳の海馬-嗅内皮質[2]間で同期することが、動物が空間的な作業記憶(ワーキングメモリ)[3]を正しく読み出し、実行するために重要な役割を果たしていることを発見しました。
 (中略)
研究グループは、最新の電気生理学的および光遺伝学的手法を、海馬-嗅内皮質間の神経回路をブロックした遺伝子改変マウスに適用し、

空間的ワーキングメモリを呼び出す際に記憶の形成/読み出しに重要とされる海馬と大脳嗅内野[2]間での情報処理がどのように行われるかを解析しました。

その結果、海馬-嗅内皮質間において脳波の一種である高周波ガンマ波の同期が、空間的なワーキングメモリを正しく読み出し、実行するために極めて重要な役割を果たすことを実証しました。

また、間違いに気付いて行動を意識的に修正する、いわゆる“お手つき”のような試行では、高周波ガンマ波の同期が時間的、空間的にシフトすることを発見し、意識的な自己修正の神経メカニズムの一端を初めて明らかにしました。
(中略)
今回の研究では、主に海馬と嗅内皮質における神経細胞集団のガンマ波領域の電気的振動現象と集合的神経活動を中心に解析を行いました。今後は、さらに踏み込んで単一細胞レベルの電気的活動を調べる必要があります。

また、ガンマ波が観測される時に、シータ波[1](6~12Hzの連続的な脳波)が基本波として観測されることが報告されていることから、それらの周波数帯域との結合性が、脳の高次機能に果たしている役割を調べることも、重要な課題の1つになります。

ワーキングメモリは、日常会話をスムーズに行うなどといった、私たちの生活の中の高次精神機能に直結しており、その研究は私たちの精神活動のメカニズムを解明するという大きな課題の1つです。

また、アルツハイマー病をはじめとする認知症やADHDなどの発達障害にいても、ワーキングメモリの障害が指摘されています。

遺伝子改変マウスや光遺伝学的手法に電気生理学的手法を組み合わせた方法で神経活動のダイナミクスを解き明かしていくことは、疾患における記憶障害のメカニズム解明につながると期待できます。

– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ 海馬-嗅内皮質間の同期性は記憶を意識的な行動へ変換する過程に重要

 

「認知的制御」に関する脳科学の参考として以下のPDFも紹介しておきますね。  参考PDF⇒ 第 6 章 認知的制御 (ver. 6, last) 小嶋祥三

 

「認知」に関する最新ニュース

 

今年のノーベル医学・生理学賞に「脳の空間認識のメカニズム」を解明したイギリスとノルウェーで活動している研究者ら3人が選ばれましたが、彼らはラットを使った実験を行い「自分が今どこにいるのかを把握する神経細胞」があることを発見しました。

 

1971年にオキーフ博士らは、ある特定の場所に来た時に発火する細胞を発見し、この細胞は,マウスの海馬の最も背側にあるCA1野という部分にあり、それを「場所細胞」と名付けましたが、

 

「なぜ場所細胞が特定の場所で発火するのか」、「何が場所細胞にラットの居場所を教えているのか」というさらに上部の構造が謎だったのです。

 

そしてモゼール夫妻は「脳が空間を認識するメカニズムの謎」を明らかにしました。大脳新皮質にも「自分の今の位置・距離を把握する別の神経細胞がある」ということを突き止め解明したんですね。

 

ノーベル賞の選考委員会は、3人を選んだ理由について、「アルツハイマー病などの患者が、はいかいするのは、これらの細胞などの脳の機能に異常が出るためだと考えられる。

 

記憶や意識など脳の情報処理のメカニズムに迫る研究で、常識を覆す成果だ」とコメントしています。参考記事 ⇒  ノーベル医学生理学賞は脳のGPS発見で欧州の3教授に

 

ではラストに、「盲目のネコ」の動画の紹介です。目が見えなくても、まるで見えているかのような見事な身体制御能力です。

 

盲目のネコが楽しそうにハイキング中 Honey Bee: Blind Cat Goes Hiking

 

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