「うつ」と遺伝要因  精神の病の遺伝環境相関

 

ナシア・ガミー「気分障害ハンドブック」

『うつ病患者の第一度近親者のうつ病発症リスクは、一般人口の3倍。双極性障害の患者の第一度近親者の双極性障害発症リスクは一般人口の8―10倍』

 

今日は、「うつ」の遺伝要因と精神の病の遺伝環境相関に関する補足の記事です。うつにせよ他の精神障害及び心・精神のバランス異常にせよ、多因子的なものであるために、一つの原因だけで全てを説明できないものですが、今回はうつの遺伝要因と環境要因の相互関係性に関する研究報告を中心に考察しています。

 

疫学研究によればうつ病統合失調症双極性障害よりも環境要因が高いとされ、遺伝要因約30%~40%程度と推測され、

 

統合失調症の場合だと遺伝率は約80%不安障害約30~50%と推測されています。統合失調症と不安障害に関する遺伝研究に関しては以下に参考PDFを紹介します。

 

参考PDF①  統合失調症の遺伝学的研究――全ゲノム関連研究(GWAS)を中心に――

参考PDF② 不安障害の遺伝研究

 

「全ての心・精神の病気 = 遺伝要因とはいえませんし、そして遺伝が優位に絡んでいる場合でも「因子のひとつ」であって全体ではありません。

 

「遺伝要因」のひとつとされる「気質」からみれば、「現象・現実の捉えた」そのものに「うつ的なもの」を生じさせる傾向性を潜在的に持っているとはいえるのですが、

 

「うつ」の遺伝と環境の相互関係性を明確化したKendlerらによる双生児研の実証的なデータによって、遺伝要因と環境要因の双方が関わっていることが具体的に確認されたんですね。

 

そして「遺伝環境相関」には受動的相関能動的相関、そして誘導的相関がありますが、この概念の具体例、わかりやすい説明を、PDF「うつ病発症と遺伝子 / 環境相互作用」から引用・紹介します。

 

遺伝環境相関 (Gene-Environment Correlation)とは、ある表現型に関して、遺伝要因と環境要因が同じ方向へ影響することを示す。例えば、親も高血圧であり、塩辛いものを食べるという食習慣を持っている場合、

その子は親と食習慣を共有する結果、高血圧が引き起こされる (受動的相関)。また、自分自身も塩辛いものが好きになった結果、自ら塩辛い食べ物を選ぶ(能動的相関) 。

さらに、自ら「自分は塩辛いものが好きだ」と周囲に伝える結果、まわりの人が「あの人は塩辛いものが好きだから、食べ物は塩辛い味付けにしておいてあげよう」といった高血圧を引き起こす環境を強化する (誘導的相関) 。

すなわち、「ある表現型に影響を与える環境要因も偶発的なものではなく、ある程度遺伝要因によって規定される」という現象も確認されている。
参考PDF ⇒ うつ病発症と遺伝子 / 環境相互作用

 

うつの「分子メカニズム」に関しては、セロトニントランスポーター (5-HTT)遺伝子多型の5-HTTLPRにおける遺伝環境相互作用がメタ解析で強く示されましたが、「分子機序を同定するには至っていない」とのことです。

 

5-HTTLPRの多型はS 型とL 型の 2つではなく、14 種類のアリルからなり、それぞれの機能の異なる複雑な多型であることからS 型、L 型の2 分法での研究自体に疑問が生じているのが現状」とのことです。

 

そして最近の研究では、「環境要因によって引きおこされるゲノム上のエピジェネティックな修飾が、うつ病を含む精神疾患の病因や病態と密接に関わる可能性が指摘されている」、とのことです。

 

再び、PDF「うつ病発症と遺伝子 / 環境相互作用」の続きを引用・紹介です。

 

初期のストレスがDNAのエピジェネティックな修飾を引き起こし、遺伝子発現や行動に影響を及ぼすこと、遺伝環境相互作用の結果生じる遺伝子のエピジェネティックな変化が、うつ病をはじめとする気分障害の発症に関与する可能性があることが示されてきた。

今後は、養育環境などを含む多数の環境要因、遺伝要因、DNAのエピジェネティックな修飾を遺伝環境相互作用の観点から包括的に検証することにより、うつ病の病因・病態に関与する生物・心理・社会的な要因を明らかにしていくことが重要であろう。参考PDF ⇒ うつ病発症と遺伝子 / 環境相互作用

 

 

追加更新 – ここから –

2016年08月02日 AFPBB News から「うつ」に関する研究結果(米科学誌ネイチャー・ジェネティクス(Nature Genetics)に掲載)を紹介します。

 

「うつ病は遺伝? 新たな証拠を発見 研究」 より引用抜粋

【8月2日 AFP】大うつ病性障害(MDD)と関連性のある17種類の遺伝的変異を発見したとする研究論文が1日、発表された。うつ病に遺伝的リスクがあることを示す新たな証拠だという。
(中略)
MDDは、単に「うつ病」としても知られる精神疾患の一つで、大半の専門家はその原因について、遺伝要因と環境要因との複合と考えている。

今回の研究では欧州系の人々の間で初めて、MDDの遺伝的関連性が確認された。これ以前にMDDの遺伝的証拠が明らかにされていたのはアジア人だけだった。– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)

引用元⇒ うつ病は遺伝? 新たな証拠を発見 研究

追加更新 – ここまで –

 

◇ 関連外部サイトの紹介

サイト「せせらぎメンタルクリニック|精神科・心療内科」から、以下の記事を紹介です。

 

うつ病の原因。うつ病は遺伝するのか?【医師が教えるうつ病のすべて】

 

 

生物学的な遺伝的気質と結びついた性格傾向という個の要因、そして親から受け継がれた癖や習慣などの人生初期の環境から与えられた要因が大きいのであれば、

 

認知」や「生活・習慣パターン」も含めた改善や変更にアプローチしていかないと、何かのキッカケで再び元に戻りかねない、ともいえますね。因子としてより「根っこ」の側が常に残り存在している状態だからです。

 

先天的な個の因子と、後天的な外部からの負の作用としての環境因子との組み合わせで現れ方の程度が決まるのであれば、どちらか一方だけでなく双方を見ていくことでより全体性としての対策となるでしょう。

 

環境因子に関しては、本人の問題よりもそれを取り巻く環境の改善や外部の取り組みが必要になります。なので「薬」で出来ること出来ないこと、精神医学で出来ること出来ないことも当然あり、精神科医はあくまでも部分的な対応としての医療行為しかできないわけです。

 

その人自身の理解や取り組みももちろん必要でしょうし、そして「密接にかかわる家族・周囲の環境」を含めての理解や取り組みも必要です。また精神医学・薬は時と場合によって必要だと思いますが、「それが全てでそれしかない」とは思わない方がよいと思います。

 

何が良くて何が悪いか、といっても、病には多様性があり、また複合的な要因が絡んで生じている現象である以上、一面的な対応や一つの定義の基準から見た眼差しだけでは全体は見えてこないんですね。

 

そしてまだまだわからないことも多い領域なので、あまり心・精神の病気の定義の基準ばかりに囚われたり、そこばかりを人間の正常・異常の基準にするのも偏り過ぎているように感じます。

 

「うつ」と遺伝要因  精神の病の遺伝環境相関” に対して1件のコメントがあります。

  1. ノムラマサカツ より:

     腸内フローラが、心に与える影響、、、気になります。
     或いは、、、猪木さんの腸内フローラが、ウツの特効薬に成るような気もしています。
     いけばわかるさー!
    ってね?かんじ?で、、、

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