児童虐待は増えた? 統計の印象・錯覚 児童虐待の原因
最近やたらと児童虐待の増加が声高に叫ばれています。そして、今の若い者は未熟で適当に子供作って責任感も忍耐力もないとか、「昔の人にはあった親心というものが今はない」とか、まぁいろいろと思い思いに人々は語っています。
児童虐待する人はいつの時代にも一定数いるでしょうし、それを今の若い者は!最近の奴らは!と置き換えるのはどうかな?と私はそう思います。
今日は統計の印象・錯覚を明らかにすることから、本当に児童虐待は増えたのか?というところの是非を見てみましょう。
まず以下に参照図として引用「驚異的な右肩上がり」の厚生労働省の統計図を見てみましょう。まずここに大きな錯覚がありますので。このタイプの統計図だけが、よくいろんなとこで引用されています。
どうですか?「やっぱり今凄いことになってるじゃん」、と思いますか? そう思うでしょうね、このタイプの統計表だけをいろんなとこで見るわけですし、きちんと吟味してみてみようなんて、普通は専門家でもないかぎりあまりそういうことしませんよね。
まずこれは「児童虐待相談対応件数」であって、「児童虐待数」及び「虐待死の件数」ではありません。そして「児童虐待率」でもありません。あくまでも「相談対応件数」です。
ですが「児童虐待 件数」のキーワードでグーグル検索すると、出てくる出てくる、何万件という数字がまず目に飛び込み、そしてこの「絵にかいたような右肩上がりの統計図」を見て納得させられ、
「うわっ、ひどい!日本もついに欧米化並みの虐待社会になったんだ、あ~やぱり日本はもう終わってる、今の若者は駄目だ」と思う方も続出することでしょう。
では「相談対応件数」に関する厚生労働省のデータを元にしたステレオタイプの記事を引き続きご覧ください。
厚生労働省は25日、子ども虐待による死亡事例等の検証結果(第9次報告の概要) および児童虐待相談対応件数を発表した。
それによると、2012年度中に全国の 児童相談所が対応した児童虐待相談件数は前年度比6,888件増の6万6,807件となり、過去最高を更新した。
児童虐待10+ 件相談件数は、統計10+ 件を開始した1990年以降、22年連続で 増加し続けている。都道府県別に見ると、最も多かったのは大阪府で前年度比 368件増の6,079件。
次いで、東京都が同229件増の4,788件、千葉県が 同1,573件増の3,961件、埼玉県が同306件増の3,767件、神奈川県が同512件増 の2,648件となった。
次は種別の「相談件数の内訳」です。こちらも参考用に張っておきます。
児童虐待は4種類にわけられています。以下にそれぞれまとめておきますので参考にどうぞ。
◇ 身体的虐待
殴る、蹴る、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、溺れさせる、 首を絞める、縄などにより一室に拘束する など
◇ 性的虐待
子どもへの性的行為、性的行為を見せる、性器を触る又は触らせる、ポルノ グラフィの被写体にする など
◇ ネグレクト
家に閉じ込める、食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、 重い病気になっても病院に連れて行かない など
◇ 心理的虐待
言葉による脅し、無視、きょうだい間での差別的扱い、子どもの目の前で家族 に対して暴力をふるう(ドメスティック・バイオレンス:DV) など
◆ 以下のリンクも様々な統計数字を詳しく書いているので参考に
どうぞ。⇒ 【図解・社会】児童虐待件数と摘発件数
児童虐待の原因
では実際の「児童虐待での死者数」と原因を見ていきましょう。
● マイナビニュース参照
2011年度中 に虐待を受けて死亡した児童は99人で、このうち無理心中以外で死亡した児童は58人。死亡した児童の年齢は0歳が25人(43.1%)で最多となり、0歳から2歳を合わせると39人(67.2%)に上った。
虐待の種類 は、身体的虐待が38人(65.5%)、ネグレクトが16人(27.6%)。
直接死因 は、「頭部外傷」が15人(25.9%)でトップ。以下、「頚部絞厄以外による窒息」が8人(13.8%)、「頚部絞厄による窒息」が6人(10.3%)と続いた。
主な加害者 は、「実母」が33人(56.9%)で最多。次いで、「実父」が11人(19.0%)、「実母と実父」が5人(8.6%)となった。
実母の抱える問題 としては、「妊婦健康診査未受診」「望まない妊娠」「若年(10代)妊娠」が多かったという。
加害の動機 については、3歳未満の事例では「保護を怠ったことによる死亡」「泣きやまないことにいらだったため」が 多数見られた。
無理心中 で死亡した児童について調べたところ、0歳から17歳までの各年齢に分散していた。直接死因は、「中毒(火災によるものを除く)」が15人(36.6%)で最も多く、次いで「頚部絞厄による窒息」が13人(36.6%)となった。
主な加害者 は、「実母」が33人(80.5%)で圧倒的に多く、次いで「実母と母方祖父母」が3人(7.3%)。加害の動機として最も多かったのは「保護者自身の精神疾患、精神不安」で14人(34.1%)となった。
参照元 ⇒ https://news.mynavi.jp/article/20130726-a235/
以上を元に、「虐待死の原因」のメインの原因を整理すると、3つの大きな原因がシンプルに見えてきます。
1. 望まない妊娠 2. 若年(10代)妊娠 3.保護者の精神疾患・精神不安
そしてこれだけでなく児童虐待の大きな力学に「相対的貧困・格差」があります。
「ユニセフ調査にみる児童虐待と児童の貧困」より引用抜粋
(前略)
わが国で一方では「児童虐待」が強い関心を呼びながら他方では「児童の貧困」にほとんど無関心な矛盾点について論じたい.
(中略)
世帯収入の中央値の 50 %未満で相対的に定義された児童の貧困では,相対的な教育上の不利の数値の平均のランク われわれの常識に反して日本は児童貧困率12.2 %と 23カ国中12 位であり,教育でも全体のテストスコアでは5位以内の上位に入ってきた日本が,第5百分位と第 50百分位を比較した相対的教育格差では,24カ国中10位と後退している.
児童の貧困の解消,緩和が児童虐待予防の前提条件としてきわめて重要な課題であることは,いくら繰り返してもいい過ぎることはないであろう.
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)引用元⇒ ユニセフ調査にみる児童虐待と児童の貧困
◇ 関連外部サイト記事の紹介 (追加更新)
先に挙げた「3つの大きな原因」の中に「保護者の精神不安」がありましたが、「精神不安に至る過程」、そこには均一ではない、個の問題だけではない複合的な力学が含まれているでしょう。
以下にそのことにもっと踏み込んだルポライター杉山春氏の記事を二つ紹介します。(これが全ての虐待に当てはまると私は考えていませんが、ひとつの事実・現実であることも確かでしょう。)
「我が子を虐待する親の「悲しい真実」~「バカな親がバカなことを…」で済ませてはいけない!」 より引用抜粋
センシティブな報道を前に、私たちは虐待・ネグレクトをする親たちに「あり得ない」「どうかしている」といったような怒りにも似た感情を抱く。
しかし、虐待・ネグレクトの問題は親だけの責任なのだろうか。
その親を取り巻く家族や社会背景を丁寧に紐解いた『ネグレクト―真奈ちゃんはなぜ死んだか』、『ルポ虐待―大阪二児置き去り事件』の著者であるルポライター杉山春氏が、
現代社会の「親のあり方」を考察する。前編では、3つの事件の親たちの生育歴や置かれた環境、虐待・ネグレクトに至るまでの過程に迫る。– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)
引用元⇒ 我が子を虐待する親の「悲しい真実」~「バカな親がバカなことを…」で済ませてはいけない!
先の記事の続編をもうひとつ引用・紹介します。
3つの事件を追ってきたルポライター杉山春氏。取材して見えてきた虐待する親たちの共通点として、過剰なまでに「社会規範に従おうとする生真面目さ」があることを指摘した。
社会の求める家族規範から降りて、親であり続けることはできるのか? 後編では新しい親のあり方、家族のカタチに迫る。
– 引用ここまで- (続きは下記リンクより)
児童虐待は増えた?
では「子供を殺めてしまう親」は本当に今に時代に特徴的なことで、昔と比べて増えたのでしょうか?(ここで使用している図は以下のリンク先からの引用です。)
図・参照元
⇒ http://blog.livedoor.jp/kangaeru2001/archives/52175200.html
まず、児童虐待とも関連するテーマなので、今と昔の幼女強姦件数を比較してみましょう。 幼い女の子を大人が襲うというのは非常にショッキングな事件ですが、
こういう精神異常性の高い部類の事件は昔より今の方が多いみたいな印象がないですか?実際はどうでしょう。
なんと十倍も昔の方が多かったのです。今はこういう事件はどんどん減少しているんですね。これは「件数」ですので、そのあたりを補足しておくと、
団塊世代が在籍していて小学生数が一番多かった昭和33年でも、2012年の小学生数の約二倍。つまり「比率」で見ても約5倍もあるということです。
前に「高齢者犯罪の増加」と「少年犯罪の減少」を記事テーマにした時も、データ的にはこれと同じ結果だったんですね。今の方がずっと目に見える暴力は減っているんです。
「だから今の方が絶対良い」という風には私は思っていません。その背景にある社会の無意識の大きな変化もその時に書きました。
しかし、「今の時代がなんか特別悪い」という根拠のない不安な感覚は、「無意識的に見聞きする情報刺激が多すぎて、既に固定的な印象が出来あがっている」、つまり否定的なバイアスがかかっているんでしょうね。
それでは次は、親による「赤ちゃん殺し」の昔と今を統計(比率)で見ていきます。
やはり右肩下がりで、激減していますね、それでは赤ちゃんだけでなく9歳児まで年齢を広げてみた場合どうなるでしょうか?
年齢を広げても同様に右肩下がりで激減しています。
驚きですね、十分の一になっています。 それでは「相談件数」の激増という現象は一体何なのでしょうか?
「相談件数」は6万件という物凄い数に増えているのに殺人率だけは右肩下がりでどんどん減っている、つまり虐待はどんどん増えているが、「殺すことだけ」はギリギリ思いとどまって我慢してるのでしょうか?
それではあまりに不自然ですよね。
図・参照元の「少年犯罪データベースドア」から以下引用抜粋します。
(前略)
殺される1~9歳は昭和30年の12分の1、バブル期と比べてさえ、6分の1ほどに減っています。人口比で見ても、昭和30年の7分の1、バブル期と比べてさえ、4分の1ほどに激減しています。
(中略)
1980年前までは9歳以下だけでも毎年500人前後が殺されていますから、当時の新聞を読むと、実子を殴って殺したり、おねしょをしたからと熱湯をかけて殺したり、食事をあたえずに餓死させたりといった陰惨な事件が文字通り毎日、新聞に出ています。たとえば、昭和三十年代の新聞記事や各県警資料で具体的内容をひとつひとつ見ていくと、こういう事件を起す家庭のうち統計上は貧困家庭となっているものも、
じつは働くのが嫌いな親ニートだったり、働いていても酒やパチンコなどに入れあげているために貧困になっている家庭がほとんどであることが判ります。病気で働けない家庭などは生活保護を受けて、ギャンブルなどに使わない限り最低限は食べられますし。
ー 引用ここまで ー
この時代の親も相当なものですね、今の時代がどうとかこうとか、今の若い親がどうとかこうとか、そういう決めつけた印象で批判などそもそも全く出来ない有様です。
このサイトの方は本も出されている有名な人ですが、その当時の新聞などにもシッカリ目を通し相当に豊富なデータから調べて統計を作成している方ですので、信憑性は高いといえます。
それでは先の問いかけに戻りますが、現在の「相談件数」の激増という現象は一体何だったのでしょうか? それは以下に紹介のリンク先のPDFで詳細をご覧ください。
※ このPDFは疑問や否定的な見方など様々な角度から徐々に結論に向かっていく書き方なので最後まで読まないと結論が見えてきません。